みそ(業務用)の日記

2018年07月27日 21時00分

微発酵探偵ミソーン 第六発酵

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マスターが来るまで手持ちぶさただったので、近寄ってきた猫をじゃらすことにした。いいねえ、ここの猫は素直にじゃらされてくれて。うちの小生意気なやつとは大違いだ。
無心になって猫をじゃらしていると、からんと軽快な音を立てて扉が開いた。
「お待たせいたしました」
マスターが手にした銀の盆にはふくよかな香りを放つコーヒーがふたつ並んでいた。ひとつを俺の前に置いて、もうひとつを俺の向かいに置いた。そして当然のように優雅な仕草で椅子に腰を落ち着けた。
話を聞きたかったので手間ははぶけたが、なかなかマイペースな人みたいだな。
「んっ、ひょっとして砂糖とミルクが必要だったかい」
俺の視線を勘違いしたマスターが聞いてくる。
「いや、ブラック派だ」
「それはいい。淹れた身としては、できればそのままの味も堪能してもらいたいからね。一口味わってくれたら、あとはご自由にだ」
マスターの言葉に頷きコーヒーを一口飲んだ。挽きたて豆のまろやかな苦味に、嫌みのない酸味が心地よく口に広がる。鼻を抜けていく香りはどこかフルーティーで爽やかだ。
「こいつは旨いな」
思わずほうとため息をついた俺に、マスターは嬉しそうに笑った。
「気に入ってもらえたみたいでよかったよ」
マスターもコーヒーを飲んで頷いている。満足のいく出来らしい。
しゃらしゃらと波がほどける音を聴きながら、コーヒーを飲む。嘘みたいに穏やかなひとときだ。
これを愛していたというナギサさんの気持ちがよくわかる。時折猫の鳴き声や遊ぶ音がするのもいいアクセントだ。
おっといけねえ。まったりしていないで、お仕事もしねえとな。
「なあマスター、ソイっていう女の子ととらさんっていう猫のことを覚えているかい」
尋ねるとマスターはおやと意外そうな顔をした。
「ああ、もちろん覚えているとも。利発そうな女の子と、義理人情に厚い猫だったなあ」
懐かしそうに目を細めてマスターが言った。その様子からふたりのことを気に入っていたのが見てとれる。
「これはいい巡り合わせだと思ったものだが、そのふたりがどうかしたのかい?」
訝しげなマスターに、俺は探偵をしていることと、ソイからとらさん探しを依頼されたことを説明した。
「なるほどね、それで僕のところに来たわけか」
ぴょんと膝の上に乗ってきた猫を撫でながら、マスターは納得したように呟いた。
「ああ、何か知っていることはないかい?どんな些細なことでもいいんだが」
「残念ながらとらさんは僕のところには来ていないよ。しかしとらさんが急にいなくなるなんて、そんな不義理なことをするとはとても信じられないなあ」
「なんだい、そんなに義理堅い猫だったのかい」
今度は俺が訝しがって聞くと、マスターは大仰に頷いた。