みそ(業務用)の日記

2018年07月21日 21時00分

微発酵探偵ミソーン 第四.五発酵

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無心になって地面を蹴り、逃げていく猫たちを追いかける。最初はひとかたまりになって逃げていた猫たちは、気がつくと散り散りになっていた。
私はとにかく虎柄の猫を逃がしてなるものかと、がむしゃらに食らいついた。見失いでもしたら、ミソーンを付け上がらせちゃうものね。
それにしてもあの速さに道行く人をかわす身のこなし、本当に彼がとらさんだったらまだ当分お迎えはこないんじゃないかしら。
やがてたくさんの屋台と人で賑わう市場に出た。肉や魚に、異国の香辛料の強いにおいに鼻がくらくらとする。これはもうしばらく鼻は頼りにできないか。目で追いかけるしかないから、見失ったらおしまいね。
虎柄の猫はさっと屋台の屋根に飛び乗ると、私を振り返り尻尾を揺らした。
ついてこれるものならついてきな、と明らかに私を挑発するものだった。こうされてむきにならない猫は、いない。
私も負けじとひらりと屋根に飛び乗ると、虎柄の猫はにやりと笑って屋根から屋根へと飛び移った。
ピンと張られてはいるが屋根の足場は柔らかく足を取られてしまい、ままよとジャンプしたが勢いが足りず、隣の屋台の縁に爪を立ててなんとか屋根に這い上がった。市場に集まった人たちからどよめきが上がる。
そんな無様な私を見て、虎柄の猫は感心したような顔をしていた。てっきり猫にあるまじき無様な姿を笑われると思っていたが、これはこれで腹が立つ。
さらにふたつみっつと飛び移るうちにコツを掴めてきたところで、虎柄の猫はひょいと屋台から降りると路地裏へと走っていった。
「なによ、せっかく楽しくなってきたとこなのに…!」
また遊びにこようと未練を残しつつ屋台から飛び降りると、虎柄の猫を追いかけた。右へ左へと曲がる背中を追走するうちに、やがて三方を建物に囲まれた袋小路にたどり着いた。
「これでおいかけっこもおしまいね」
「そうだな、なかなか楽しかったぞ」
虎柄の猫は正面から私を見据えてふてぶてしく答えた。
「私の質問に答えてくださるかしら」
「なぜオレがお前の質問に答えなければならんのだ」
「なぜって、おいかけっこは私の勝ちでしょう。こうしてあなたは袋の鼠なわけだし」
それを聞いた虎柄の猫はさも愉快そうに高笑いした。
「なにがおかしいの」
「なにって、まだ気がつかないのか。そろそろ鼻も効く頃だろう」
「鼻…っ!」
しまった、さっきから目ばかりを頼りにしていたからまったく気がつかなかった。背後から漂う複数の猫のにおい。逃げ道はなさそうだ。
「追い詰められたのは私の方ってわけね」
わざわざ市場を通ったのは、鼻を封じて味方のにおいを気付かせないようにするためか。まんまとやられた。
「そういうことだ。さあ、オレの質問に答えてもらうぞ」
これはやっかいなことになったわね。