2017年10月03日 22時09分
やれゆけ、味噌パンマン! 第二話「味噌パンマン誕生 前編」
タグ: 味噌パンマン
二人は僕にとって紛れもなく親友だった。生まれて初めてできた、二人の親友。それを同時に失う日が来るなんて、疑ってもいなかった。
あの日に戻れれば。いくらそう思っていても、時間を戻すことなんてできない。
食アカ最大のお祭である秋の食品祭。それは多くの人々が遠方からも訪れる、全国に名の知れ渡ったお祭であった。来訪者数は数万人といわれている。
そして秋の食品祭、最大のイベント。即席コンビ料理対決、通称即コンが行われる会場は、全国でも最大級のイベントホール「コージーホール」で行われる。
ホールにはぴかぴかの調理設備に東西のあらゆる食材が並べられており、即コンの参加者も観客も異様な熱気に包まれていた。
それもそのはずで審査員には名だたる美食家たちに加えて、食品共和国を治める賢王ガスパチョも審査員を勤めるからだ。
ガスパチョは賢王としてだけではなく、あらゆる美食家の頂点に立つ者としても有名であった。彼の舌に認められれば、料理人としての成功は約束されたも同然である。
なんとしても名を馳せたい参加者たちのやる気は、うなぎ登りの天井知らずである。
優勝者の料理は後に会場で試食することができるため、観客たちは自らも美食を味わえるその時を今か今かと待ちわびていた。
「第8回 即席コンビ料理コンテスト、栄えある優勝者は」
ドラムロールが鳴り響き、会場中が固唾を飲んで優勝者の発表を待っていた。
味噌マン、ウインナーちゃんのコンビが作った「ウインナーの味噌グラタン」か。それとも、ケチャップマン、ナスマンのコンビが作った「ナスたっぷり酢豚」か。
味噌マンはちらりとケチャップマン、ナスマンのコンビを見たが、二人は奇妙なまでに落ち着き払っていた。これに優勝することができれば、人生が変わるほどの名声が得られるというのに。
ナスマンが味噌マンの視線に気がつくと、ニヤリと不吉な笑みを浮かべた。味噌マンは思わずゾッとして、目をそした。
「ケチャップマン、ナス**ンビの『ナスたっぷり酢豚』です!」
割れんばかりの歓声が響くなか、ケチャップマンとナスマンはどこか影のある笑みで表彰台に上る。味噌マンにはそんなケチャップマンの姿が不可解でならなかった。
ウインナーちゃんは表彰台に上るケチャップマンを見て「おめでとう!」と涙ながらに祝福を送っていたが、ケチャップマンは冷たい目を返しただけだった。
そして盛大な表彰式の後に、ケチャップマンとナスマンお手製の酢豚が会場中に配られた。
「皆様のお手元に届きましたでしょうか?それでは手を合わせて、せーの」
「いただきます!」
会場中の皆が一斉に唱和すると、待ってましたとばかりに配られた酢豚に箸が伸ばされた。
「うーん、このナスのトロトロ加減!」
「ケチャップの甘酸っぱさとよくあうね!」
「これまで食べた酢豚の中で一番美味しいよ!」
このときはまだ、会場は美味しさの笑顔に包まれていた。
会場中が酢豚を絶賛するなか、味噌マンとウインナーちゃんは、ケチャップマンにお祝いを言おうと探し回っていた。
「いったいどこに行ったんだろうね」
「そう遠くには行っていないと思うんだけど。ねえ、味噌マン」
「ん、なんだいウインナーちゃん?」
「これで大丈夫よね、ケチャップマンは」
ウインナーちゃんの声に味噌マンは足を止めて、振り向いた。ウインナーちゃんの大きな瞳は不安に揺れていた。
「大丈夫、元の明るいケチャップマンに戻ってくれるさ。何よりの栄誉をもらったんだ、陽気に鼻唄でも歌っているよ」
「うん、そうだよね。ありがとう、味噌マン」
安心したように微笑むウインナーちゃんが、どこか遠くに行ってしまいそうに儚げに見えて、味噌マンは気がつくとその手を握ろうとしていた。
「おぉおぉ、お熱いねぇお二人さん。優勝できなくても幸せそうで何よりだねぇ」
気がつくと二人のそばには嫌らしく笑うナスマンと、氷のような無表情で佇むケチャップマンの姿があった。
「やあ、ナスマンにケチャップマン。優勝おめでとう!」
「ケチャップマン、本当におめでとう!あなた優勝できるって思っていたわ!」
嬉しそうに駆け寄るウインナーちゃんを、ケチャップマンは容赦なく突き飛ばした。
「きゃっ!」
倒れこみ、呆然と見上げてくるウインナーちゃんを、ケチャップマンは虫でも見るような目で見下した。
「なにをするんだ、ケチャップマン!ウインナーちゃんは君のことを」
「うるせえな、無農薬どもが!」
かつての陽気なケチャップマンからは想像もできない、獰猛な声。
「心配していた、応援していた、とか偉そうなこと言いやがるんだろ!いつもいつも、俺たち農薬派を見下しやがって!」
「な、君はいったい何を言って」
ケチャップマンにはもう、味噌マンの声は届いていないようだった。ギラギラと狂気を宿した瞳で吠え続ける。
「だが、それももう終わりだ!これからお前たち無農薬どもに地獄を見せてやるよ!」
そのケチャップマンの言葉が合図だったかのように、会場から空気が震えるほど折り重なった悲鳴が聞こえてきた。
「なっ、いったい何が!?」