2017年09月01日 22時34分
私とお出汁さん
お出汁さんと私は幼なじみでした。
物心ついたころから一緒にいて、なにをするにも一緒でした。俳句も川柳も発酵会も、そして初めての調理もすべてお出汁さんとでした。
お出汁さんと初めて混じりあったときの悦びは、他のなにものにも変えがたいものでした。
お互いの存在がほんの少しの隙間もないくらいに溶けて混じりあえた相手は、これまでお出汁さんだけです。
私たちはくる日もくる日も混じりあいました。お互いの欠けた部分を埋めるように、深く深く混じりあいました。
そうすることで私たちはいろんなものを誤魔化し、逃避していたのでしょう。ただ、さみしさに負けて選んだ発酵だったのかもしれません。
それはお互いの可能性を閉ざすだけでした。私たちはもっといろいろなものと混じりあい、様々な料理となって人々に食されるべきなのです。
それが私たちの存在意義なのですから。
私とお出汁さんとでは味噌汁にしかなれません。それだけでは、あまりにも狭すぎたのです。
私たちは近くにいすぎて、お互いしか見えていませんでした。もっと回りを見て他の食材や調味料たちとの可能性を探ることが、食品としてのあるべき姿でした。
昔から聡いお出汁さんは私よりも早くそれに気がつき「距離を置きましょう」と言いました。
「美味しい味噌汁にさえなれればそれでいいじゃないか」と私はわがままを言いましたがお出汁さんは悲しそうに微笑むだけでした。
「他の食材や調味料との可能性も探求して、それでもお互いしかないと思えたのなら、また混じりあいましょう」
和食本舗てらまさで可能性を探るというお出汁さんを引き留める言葉は、私の中にありませんでした。
お互いの可能性の果てに再び出会えても出会えなくても、それが私たちの運命なのだと今では思います。
*)和食本舗てらまさ
京都府今何寺通り沿いにあるとまことしやかに囁かれている和食の名店。出汁を活かした様々な絶品料理がうりで、数多の著名人や政治家たちが足しげく通っているらしい。近々ミシュランみたいなガイドブックにも載るとか載らないとか
みそ(鳩胸)
ハピたんさん
ありがとうございます。
私たちなら世界一の味噌汁になれると信じています。
2017年09月01日 22時52分