2024年11月17日 20時05分
独居神
うんざりするほど長く続いた夏が終わり、ようやく秋を迎えたかと思ったら、もう風は冬の寒さになっている。太陽もカフェでダラダラする客みたいに未練がましくなく、スパッと沈むようになった。
当たり前か、もう十一月も半ばだ。
気がつくとまた一年が終わろうとしていた。目立った変化もなく、ただ年をひとつ重ねただけの一年が。
ひとの一年に総括を行う神様的な存在がいたとしたら、私に対する総括はきっと毎年おんなじだ。
去年の再放送かな、もう見飽きたよ。もっと変化を求めましょう。来年に期待!
神様ってこんなに軽いのかな。まあいいか、どうせ私の中だけの神様だし。ご当地神様よりもっと身近な、ご家庭神様。
いやご家庭って言うと一家団らんを見守る神様的な感じになっちゃうか。こいつは違うな。もっと陰湿で嫌味な感じで、そう、独居神。
語呂が悪いから様は抜いちゃったけどいいよな、そんなありがたみやご利益のある神様じゃなさそうだし。むしろひとを孤独死に導いていきそうな雰囲気すらある。なんて神様だ、貧乏神とかと同じ類じゃないのか。
とんでもねえ、あたしゃ神様だよ。あるよ、ご利益。ジャラジャラあるよ。崇め奉れ!
なんて胡散臭い。FXとか仮想通貨とかと同じ類の臭いがプンプンする。こんなもんどうでもいいから部屋の掃除でもしよう。貴重な休みが終わってしまう。
独居神は意識しなければ大人しいというか存在しない。私の妄想なんだしそりゃそうだ。でもちょっとでも頭をよぎると、こたつの上や電車の網棚なんかにプカプカと浮かんでいる。
時代錯誤なヒラヒラした安っぽい着流し姿でだいたい腕枕をして寝転び、尻をかいている。うっかり会議室で思い浮かべたときには、ウマの合わない上司の上に出現して屁をこいて笑いそうになったものだ。
基本やる気がないんだ、こいつは。真面目に神様的な活動をしているところを見たことがない。
いや、神様的な活動が何なのか具体的に聞かれても困るが、たぶん人知の及ばないこと、そう、例えば世界平和を実現するとか、そんな崇高なことだろう。それは独居神の領分ではない。期待することなかれ。
こいつの領分は、そうだな。スタンプカードを財布の奥の取り出しづらいとこにしまい込んだりとか、リモコンの位置をずらしたりとか、目覚ましを5分早い時間にしかけるとか、そんなところだろう。本気で困るほどではない微妙な嫌がらせ。
ひとり暮らしの家で起こるちょっと不思議な出来事はすべてこいつのせいだ。なんてはた迷惑な。
日常の中のちょっとしたスパイス。わたしがいなきゃいないできっとさみしいし物足りないよ。
そんなわけあるかと思ったものの、案外そうかもなと思い直してしまった。家にひとりでいると思うよりも、こういうのでもいたほうがマシなのかな、と。
独居神がしたり顔してニヤリと笑いやがったので、腹いせにつまんでいた柿の種を投げつけると、乾いた音とイテッという間抜けな声が聞こえた気がした。
後で柿の種を探したが、不思議なことに影も形も見つからなかった。