2019年02月06日 21時30分
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お兄ちゃんは村の有力者のひとり息子で、なにひとつの不自由もなく暮らしていた。大人たちは彼の親の威光に頭を垂れ、子どもたちも親から言い含められているのか遠慮がちに彼に接した。お兄ちゃんには友と言えるものはいなかった。
彼が欲しがるものは大抵与えられた。お菓子も、玩具も、遊び相手も。そんな彼にも与えられないものがひとつだけあった。
「お父様、なぜ犬を飼ってはならないのですか」
「ならんならん。あんなものが屋敷にいたら、家中が獣臭くなってしまう。それ以外のものならなんでも与えてやるから、な?」
ひとり息子にとことん甘いお父様も、それだけには頑なとして首を縦に振らなかった。
(犬がいなければ狩りも満足にできない。いい歳して狩りのひとつもしたことがないなんて恥だ。他になんの楽しみもないこんな田舎でいったい何をしろと言うのか)
彼の中で満たされない何かが大きくうねり、行き場を求めて暴れまわった。それを発散するために猟銃でひたすら的撃ちをしたが、それはただ大きく膨らむばかりだった。
生きたものを撃ちたい。溢れだす血が見たい。命が失われるその瞬間を、心臓に手を触れて味わいたい。脈打つ命が終わる瞬間を感じたい。
はっきりとその衝動を意識したとき、彼はその考えの恐ろしさに震えた。
(なんてことだ!こんなのただの狂人じゃないか!違う!僕はそんなのじゃない!)
しかしその瞬間を想像するだけで彼の芯は暴力的に尖り、抑えきれない欲望を解き放った。彼はただ自らの内で荒れ狂う衝動に戸惑うばかりだった。
みそ(鳩胸)
根がむっつりなのでしょうがないですね。
2019年02月06日 21時48分