みそ(うすしお)の日記

2019年01月28日 23時06分

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ある日、娘が屈辱に堪えて卵を貰って帰ろうとすると叔父がにやにやと嫌らしい笑みを浮かべて引き止めた。警戒の色をあらわにする娘に構わず叔父はその手を荒く掴んだ。がさがさとした無骨な手の感触に肌が粟立つ。
「おい、ちょっとあれ見ろよ」
叔父が引きずるように娘を連れてきた先は豚小屋だった。柵と屋根しかついていない粗末なつくりで外からも中の様子が見えるようになっている。薄暗い豚小屋の中では、1頭の豚がもう1頭の豚に後ろから覆い被さっていた。
「真っ昼間からお盛んなこった」
娘にその意味はよくわからなかった。しかし汚ならしいその様子に嫌悪感を抱きながら、なぜか目を離せなかった。上に乗った豚が腰を動かすたびに、地面に押し付けられた豚は低く呻くような鳴き声をあげる。
娘はその声と姿にある光景を重ねていた。それは父が家に帰ってきた日の夜、言いつけを破り寝室を覗いたとき目にした影絵のような光景。
トイレに起きた娘は両親の眠る寝室から苦しそうな呻き声が聞こえてきくるのに気がついた。心配になってそっと扉を開けて恐る恐る中を覗く。するとベッドの上でとぐろを巻いた巨大な蛇のようなものが蠢いていた。息を呑む娘の目が暗闇に慣れてくると蛇の正体が見えてきた。
蛇の鎌首だと思っていたのは母で、暗闇の中でも暗くぎらつく目で貪るように腰を動かしていた。蛇のとぐろはベッドに埋もれた父で、蔑むような目で喘ぐ母を見ていた。
目の前の豚たちがしていることはそれによく似ている。姿形は違えど、本能的な部分で娘はそう直感した。
「なんだ、交尾がそんなに珍しいのか」
交尾、あれが。母さんと父さんも、交尾をしていた?
「お前もああして生まれたんだ。もっとしっかり見とけよ」
叔父が下品な笑い声をあげて去っていっても、娘はそれから目をそらせなかった。濃厚な獣の臭いが漂うなか、娘は立ち尽くしていた。
覚束ない足取りで家に帰り、粗末なベッドに逃げ込んだ娘の脳裏には昼間見た光景が焼き付いていた。叔父の『お前もああして生まれたんだ』という言葉も再生された。
あんな行いから私が生まれたの?嫌だ!汚い!汚い!汚い!
そう思っても夜毎に醜く折り重なる豚の姿は脳裏に浮かび上がり、忘れ去るよう必死に念じた。しかし意識の外へ追いやろうとすればするほど鮮明にそれを思い出し、やがて豚は父母へと姿を変えて激しく蠢いた。娘はなぜか身体の奥が疼くのを感じ、酷く戸惑った。

みそ(うすしお)

五話目になります。続きは週末になりそうな感じがします。

2019年01月29日 00時01分