2019年01月22日 21時59分
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それは平凡な農家に生まれた女の話。
女は母によく似た田舎臭い顔立ちをしていた。のっぺりとした鼻に小さな目。唇は厚ぼったくて野暮ったい。頭の回転も悪いのか返事は遅いし言葉もなにかしら足りない。用事を頼んでも要領が悪く野良仕事も満足にこなせない。
きっとこの子は生きるのに人一倍苦労することだろう。
母は我が子の将来を憂えた。しかし自分の生き写しのような娘を見ているとそれ以上に苛立ちが募った。
母は躾と称して幼い娘を棒で打ち据え、なにか失敗をすれば飯を抜き、冬であっても外で寝かせた。父はすでに家庭以外の場所に安らぎを持っており家のことには無関心だった。そのこともまた母を苛立たせ、娘への躾はより苛烈なものとなった。
いつしか娘は躾を行う母を下から睨め付けるようになった。恨みがましげなその目を見る度に母は激昂した。
「なんだいその目は!気にくわないことがあんならはっきり言ったらどうだい!」
しかし娘は何も言わずただ目で抗議をしてくる。それに我慢できなくなり平手で殴った。何度も何度も。母はふとこんな光景をどこかで見たことがあるような気がした。
ああ、そうか。これはあたしが母親からされたのと同じ仕打ちだ。我が子ができたら絶対にこんなことはすまい。そう思っていたはずなのに、どうして。
愕然としながらも、振り上げた手を止めることはできなかった。