2018年11月04日 21時56分
あなた
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風に揺れる木の葉はすっかり色づき、あの日から季節が一巡りしたことを教えてくれた。あの日、私たちは些細なことで喧嘩をしてこの道を歩いていた。
彼と付き合い始めたのは、ひとりでいることに耐えられなかったから。明かりのついていない部屋に帰って、ひとりでご飯を食べて、おやすみを言う相手もいない。そんなどこにでもある孤独に耐えられなかった。
誰でもいいわけではなかったけど、このひとでなければならなかったわけでもない。彼は代わりのきくだれかだった。
だから一度でも亀裂が入ったら、それをわざわざ修復することもないのだろうとぼんやり思っていた。
並木道を早足で歩く彼の背中を見て、私はまただれかを探してしまうのだろうかとため息をついた。
それが聞こえたわけではないだろうけど、彼は歩調を緩めて振り向いた。不機嫌そうな顔をしていたのに、なぜかふふっと笑った。
「木の葉、ついてるよ」
「うそっ、どこに」
木の葉を払おうと手をばたばたさせていると、彼が近づいてきてひょいと取ってくれた。お礼を言おうと彼を見るとちょうど彼の頭にも木の葉がひらりと舞い落りて、ふふっと笑ってしまった。
不思議そうな顔をする彼に、
「木の葉、ついてるよ」
同じ言葉を返した。そして私にしてくれたのと同じように枯れ葉をとってあげた。
「ありがとう。それと、さっきはごめん。あんなに言うつもりはなかったんだ」
「ううん、私こそごめんなさい。むきになるようなことでもなかったのに」
お互いはにかんだようになって、こそばゆい沈黙が流れた。彼がそっと差し出してくれた手をとって、並木道をゆっくりと歩きはじめた。
彼の背中ごしに見た景色よりも、ふたりよりそって見る景色はいろんなものが鮮やかに見えた。
夕陽よりも紅いもみじ。絵画のように黄色い銀杏。落ちていく枯れ葉でさえも、眩しくて。
「秋が仲直りさせてくれたみたいだね」
呟くように言った彼の横顔は、繋いだ手のようにあたたかく、どこまでもおだやかだった。私も同じことを思っていたけど、言葉のかわりにぎゅっと手を握りしめた。
あの瞬間に彼は、さみしさを紛らわすためのだれかから、ともに歩いていきたいあなたになった。
もう喧嘩をしなくなったとは言えないけど、これからも巡る季節を、私はあなたと過ごしていくのだろう。