2018年08月01日 21時00分
微発酵探偵ミソーン 第八発酵
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マスターからソイととらさんの話を聞いて、俺は深く息をついた。波の音がどことなく切なく響く。
「そうか、そんなことがあったのか」
マスターは小さく頷くとコーヒーを飲んだ。俺も釣られてコーヒーを飲むと、なぜだかさっきよりも苦く感じられた。
「ソイはまだ再婚相手の妻子にいびられているのかい?」
「いや、今は生みの母親と一緒に生活しているよ。金銭的な面で多少の苦労はあるようだけど、息を殺して精神をすり減らしながら日々を過ごすよりはいいだろう」
「ああ、そうだな」
金はもちろんなくてはならないものだがそれと同じくらいに、ひょっとしたらそれ以上に大事なものもある。ソイととらさんの間に生まれた絆とかな。
それにしても、なんでソイがひとりで探偵なんていう胡散臭いもんに依頼をしに来たのか、ようやく腑に落ちた。母親に苦労や心配をかけまいとしてひとりで来たんだな。いちいち泣かせるやつだ。
「しかし話を聞いてますますわからなくなってきたぞ。どうしてとらさんはソイを置いて、ひとりぼっちにさせるようなまねをしているんだか」
「それを調査するのが探偵の仕事だろう」
「おっしゃる通りで」
顔をしかめる俺を見てマスターは愉快そうに笑った。
「僕が話せるのはこんなところだ。後は君の腕の見せ所だ。頑張れよ、探偵」
「言われなくても受けた仕事はきっちりこなすさ」
と返したところで、ガンガンと耳障りな音楽が飛び込んできやがった。
「やれやれ、またか」
マスターがうんざりしたような口調で言った。音楽に負けないように大きな声になっている。
「一週間くらい前からか、毎日妙な若者たちが集まって下の浜辺でばか騒ぎをして困っているんだよ」
「ああ、それならさっき見たぜ。猫たちが蹴散らしていたが、懲りないやつらだねえ」
「なんだって、そんな危険なことをあいつら」
「あいつらなりのマスターやナギサさんへの恩返しなのかもな」
「いや、しかし…」
唸るマスターを尻目に立ち上がり、岬の上から浜辺を見下ろした。連中、音楽にノッてバカみたいに体を揺らしてやがる。
呆れて眺めていると、こそこそと集団を抜け出して岩影に向かう若者が目についた。そういえば下にいたときにも、こんな行動をしていたやつがいたな。
下では見えなかったが、少し距離があるがここからなら岩影だってよく見える。自慢じゃないが俺は目もいいからな。
岩影にはサングラスをかけた若者がいて、数枚の金と引き換えに袋に入った白い粉を渡していた。おいおい、こいつはキナ臭くなってきやがったぜ。