2017年12月28日 19時52分
裸生門 六
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屋台広場は飲んだくれ通りの中央に位置する広い円形の広場で、焼き鳥、おでん、餃子にケバブなど様々な屋台が立ち並ぶひときわ賑やかな広場だ。屋台と提灯の明かりが溢れ、夜だというのにまるで真っ昼間のように明るい。
その広場の中央に人混みができていた。皆一様に、そろいもそろって赤みがかった顔をしている。
正男がざわめきの中から騒ぎの中心を覗きこむと、そこにはやたらと豪華で迫力のある二階建ての人力車が停まっていた。人力車の前方で汗を拭っている、力士のような二人の巨漢がおそらく動力源なのだろう。
屋上は盆踊りの櫓のようなステージになっており、力士が入るには少し狭い土俵が真ん中にでんと置いてあった。おそらくあれが尻相撲用の土俵なのだろう。
土俵の周りにはきらきらと輝く、桃のような形の飾りがあしらわれている。
「いや、桃ではなくてあれは尻か。翁はよほどの尻好きのようだな」
正男が親近感を抱いて頷いていると屋上に、サンバの衣装のような、やたらと露出度の高い服を着た美女たちが踊るように出てきた。どの美女も負けず劣らずの桃尻をしていて、正男は思わず歓声をあげた。
しまったと思い慌てて口元を押さえたが、周りの反応も似たようなもので、やんややんやと喝采を送っていた。
目立たなくてよかったと正男がホッとしていると、美女たちに続いて仙人のような長い白髭を生やした老人が姿を現し、ひときわ大きな歓声が上がった。
歓声の中をにこやかに手を振り、堂々と歩く品のある着物を身に纏った小柄な老人。普通の相撲は当然として、尻相撲であっても彼はとても強そうには見えなかった。
「おいおい、彼が服取りの翁なのか。私の尻にかかればちょちょいのちょいではないか」
正男がひそかに勝ちを確信していると、大柄なプロレスラーのような男が出て来て、土俵に上がって尻を突き出した。当然、鍛え上げられた尻は鋼のように力強い。
男が尻を左右にふりふり挑発すると、翁は不敵な笑みを浮かべて土俵に上がり、男に向かって尻を突き出した。その尻は年相応に貧相で、厚みや力強さとは無縁に見えた。
翁と男がぴたりと尻をくっつけると、辺りは水を打ったようにしんと静まり返った。いよいよ尻相撲が始まるのだろう。
勝敗なんて火を見るよりも明らかだったが、周囲の緊張感に飲まれた正男はごくりと唾を飲み込んだ。