2017年12月23日 22時03分
雪のように 後編
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「もう疲れちゃった。雪の中で永遠に眠っていられたらいいのに」
ベンチの端に薄く積もった雪に触れた手を僕は掴んだ。雪と一緒に君まで溶けて消えてしまいそうな気がして、掴まずにはいられなかった。
「あたたかい」
呟いた君は、隙間をなくすように指と指とを絡ませた。ひとつの生き物のようになった、君と僕の手。
君が結ばれたい相手は僕じゃない。
そうわかっていても僕は手を離さなかった。君の手が冷たかったから、と言うのは綺麗な言い訳だろう。
ただ静かに雪が降り続けていた。
僕の部屋についてからも、僕たちの手は離れなかった。それしかお互いがそこにいることを、確かめるすべを知らないかのように。
ベッドに腰掛け、片手で服を脱がせようと奮闘する僕を君がくすくすと笑った。
「普段はもう少しスマートに出来るんだけどな」
「いいよ、離しても。私は消えたりしないから」
「僕も消えたりしないよ」
知ってると言うと、君は手を離してさらさらと服を脱いだ。
窓から差し込む藍色の月明かりに照らされた裸身は、白く輝く新雪のように美しかった。
「私ばかり見られるのは、不公平じゃない」
「ごめん、つい見とれちゃって」
「バカ」
君が機嫌を損ねないうちにと、僕は素早く服を脱いだ。
お互いのかたちを指先で記憶するかのように、僕たちは身体のすみずみまでなぞりあった。頭の先から爪先まで、あますところなく。
耳に聞こえるのはさらさらというシーツがたてる音と、熱く狂おしくなっていく吐息だけ。
できるかぎりの優しさでお互いの存在を確かめあった。それが最後だとわかっていたから。
君のいちばん深いところに僕が到達すると、僕たちは自然と指を絡めた。
「やっぱり、あたたかい」
そう言ってさみしそうに笑う君は泣いているようだった。
僕たちは並んでベッドに横たわり、指先から伝わるぬくもりだけでお互いを感じていた。
好きだよ。愛している。
そんな言葉を口にしても嘘だとわかっていたから、僕たちは何も言わなかった。どれだけ美しい言葉で行為を飾り立てても、ただむなしさが増すだけ。
何も言わないことだけが唯一、お互いのこころに対して誠実であることだった。
薄い衣擦れのささやきでまどろみから覚めた。頬をくすぐる君の吐息。
君は息を吸い込み何かを言おうとしたが、声になる直前にこころに沈めた。夢から醒めるように遠ざっていく君の気配。
やがて静かに閉まる扉の音。しばらく待って、白い息を吐きながら玄関に行くと、君の靴がなくなっていた。
君はきっと、もう二度と僕の前に現れないのだろう。
外に出ると未だに降り続ける雪が朝焼けに照らされて、淡い橙の光を放ち最後のきらめきのように儚く散っている。朝焼けに溶けていく雪のように、君は僕の前から姿を消した。
みそ(鳩胸)
最初はちょっとエッチなのを書いてみたいと思っていただけなのに、どうしてこうなったんでしょうね。
2017年12月23日 22時11分