2017年12月04日 19時59分
(祝) 戦闘力1000記念 裸生門 一
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人と車が行きかう夜でも明るい大通り。その様子を伺うように、路地裏からひっそりと顔を覗かせている男がいた。なんとも情けなく、心細そうな顔をしている。
それも無理はない。彼は全裸だった。
いや、正確にいうと全裸ではない。なけなしの理性が働いたのか、靴と靴下。それになぜかネクタイだけは締めていた。
ネクタイを身に付けるとお堅い雰囲気になるものだが、全裸にネクタイという異様極まりない姿ではなんの効力もなかった。
裸体にぽつんとぶら下がるネクタイは、むしろ余計に変態を臭わせるだけである。
彼の名は相沢 正男。警察官の父によって、正しいことができる男になるように、という願いを込めて名付けられた。それがなぜこんなに見るも無惨な姿になったのか。
正男は全裸ネクタイという、言い訳できないほどの変態スタイルで路地裏に倒れていたわけを思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。
今わかる唯一のことは、このまま大通りに出ては間違いなく、父と同じお仕事をする人のお世話になってしまうということだけだった。いや、区域的に父そのものにお世話になる可能性も大いにありえる。
それだけは避けねばなるまい。
正男は生っ白い身体を夜風にさらしながら固く誓った。
深夜とはいえ人と車の行きかう大通りに出ては、ジャニーズが出てきたくらいに黄色い悲鳴が上がることは明らかだ。なので正男はしぶしぶと怪しげな路地裏を進むことにした。
前を後ろを手で隠しながらひそひそと路地裏を歩くその姿は、怪しさにみち溢れていた。人に見られていたら、新たな都市伝説として語り継がれていたかもしれない。
靴を履いていたことがせめてもの救いだったが、それなら服も着ていてくれと思わずにはいられなかった。
道のわきには異臭を放つごみ箱や空き瓶がみっちりと詰まったケース。壁にはいかがわしいチラシがちらほらと貼り付けられていた。
電話一本であなたの悩みを解決してくれるらしかったが、携帯すら手元になかった。身に付けているものだけが今の正男のすべてである。
正男が全裸で歩むことにも慣れてきて、むしろこれもありなのではと思い始めた頃、行き止まりになんとも怪しげな店が姿をあらわした。
見るものに財布の警戒心を抱かせるようなけばけばしい配色のネオンには、『裸生門』という文字がいかがわしく揺れていた。
怪しすぎる。どう控えめに見てもまっとうな店とは思えない。
普段の正男なら回れ右をしていたところだが、今夜の正男は全裸なせいか思考まで大胆になっていた。
ひょっとしたら気のいいママと常連さんがいて、服や電車賃を貸してくれるかもしれない。場合によっては美人ママとの運命の出会いもあるかもれん。彼女を夜の仕事から救いだすことが我が使命なり。
とことん都合のよい考えをまとめ、生ぬるい風に誘われるように正男はいかがわしい扉を開いた。夜と全裸は正男をちょっと大胆にしていた。