2017年11月19日 21時00分
お約束の花子 お手伝い編
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「ううー、重い。なんでこんな重いものをか弱い女が運ばなきゃならないのよ」
花子はぐちぐちと言いながら、段ボールに詰められた教材をえっちらおっちらと運んでいた。
「間宮先生はすぐに日直をこきつかうんだから、もう」
世界史の間宮先生はこまごまとした雑用を日直に押し付けることで有名だった。運悪く日直だった花子は、貧乏くじを引かされたわけである。
「この荷物を持って階段上るなんてわけワカメよ」
ときおり花子はひどく古臭い言い回しをする。昔の少女漫画も読んでいる影響かもしれない。
ぐちっても教材は階段を上ってくれないので、仕方なく花子は階段を上り始めた。
「あっ、その階段は水拭きしたばかりだから気をつけて」
「えっ?」
階上から声をかけられた花子は思わず見上げようとして、うっかり足を滑らせてしまった。
「危ない!」
転げ落ちそうになる花子の背中を、すんでのところで力強い手が受け止めた。
「ギリギリセーフだったね」
「あ、ありがとう」
お礼を言いつつ受け止めてくれた人を見ると、なんと健であった。
ああ、これはなんというお約束だろう。階段から落ちそうになるところを受け止められるなんて、お約束の神様は私に微笑んでいる!
「大丈夫、山本さん。どこか打った?」
お約束トリップする花子を、健が心配そうに見つめた。それも花子を受け止めた姿勢のまま、つまり息がかかるほどの距離で。
「だだだ、大丈夫!いつも星屑ロンリネスな花子ちゃんよ!」
それは果たして大丈夫なのだろうか。
頭が心配になるようなことを言いながら花子は、あわてて健から離れようとしたが、そこはまだ濡れた階段の上である。
「わわっ!」
花子は当然、再びバランスを崩しそうになった。
「おっと、落ち着いて山本さん。とりあえずその教材を受け取るよ」
健は落ち着いた様子で花子を支えて、ひょいと教材を持った。
「あ、ありがとう、木村くん。力持ちなんだね」
「ひとりじゃんけんとお手玉を嗜むなら、このくらいはね」
どちらも腕力とはあまり関係がない。それで素直に感心するのは、花子くらいなものである。
「それで、どこまで運ぶの?」
「えっ、そんな悪いよ。私が頼まれたのに」
「いいよ、気にしないで。これもお手玉の修行だよ」
健のお手玉に対する熱意は、いったいどこからくるのだろうか。
「すごい、木村くんはお手玉ガチ勢だね。それじゃあ、三階の社会科準備室までお願いします」
「よし、それじゃあちゃっちゃっと運んじゃおうか」
軽やかに段ボールをお手玉しながら、健はすたすたと階段を上っていった。お手玉ガチ勢、おそるべし。
みそ(鳩胸)
両者ともにガチ勢!
2017年11月19日 22時08分