みそ(鳩胸)の日記

2017年11月15日 20時49分

ミソえもん 行きたいところに行けるドア編 後編

タグ: ミソえもん

「それじゃあ、どこにしようかなあ」
「どこでもいいぞ。このドアは君を望む場所へと連れていってくれる、魔法のドアだ」
使ったこともないくせによく言うもんだと媚び太は感心した。自称紳士が今はぺてん師に見える。
「あっ」
「行きたいところが定まったのかい?」
「そう言えばこの間、静寂ちゃんが『私は湯浴みが好きでな、休みの日は大抵昼間も湯浴みをしている』って言っていたんだ」
「ほう、今はちょうど休みの昼間。静寂ちゃんは湯浴みの真っ最中であるかもしれないな」
媚び太とミソえもんはいやらしくニヤリと笑った。
「ミソえもん。僕なんだか、無性に静寂ちゃんに会いたくなっちゃったよ」
「奇遇だね、媚び太くん。私もだよ」
「それじゃあ、決まりだね」
「そうだな、媚び太くん 」
二人は目を合わせて力強く頷くと、ドアノブを掴んだ。
「あれ、ミソえもん。僕が先に使っていいんじゃなかったの?」
「何を言っているんだい、媚び太くん。未知へのドアってやつは、二人で開けるものだよ」
カッコよさげに言っているが、意味はまるでわからない。彼らが開けるのは未知へのドアではなく、ただのスケベなドアである。
「オープンザドゥアー!」
媚び太の渾身の叫びに吹き出しそうになるのを、ミソえもんはなんとかこらえた。

行きたいところに行けるドアを開いた二人の耳に水の音が聞こえてくる。それもどしゃ降りの雨のような、激しい水の音が。
ずいぶんと勢いのいいシャワーなんだなあ、と行きたいところに行けるドアから出て目の前を見た媚び太は思わず絶句した。
音の正体は激しいシャワーなんぞではなく、崖から絶え間なく降り注ぐ水の束。つまりは滝である。
そして円形になった滝壺には白装束に身を包み、滝に打たれる静寂の姿があった。
「おや、これはまたずいぶんとワイルドな湯浴みだね」
「いや、どう見ても湯浴みじゃないよ!ごりごりの滝業だよ!」
とぼけたことを言うミソえもんに、媚び太は流れ落ちる水のような突っ込みを入れた。遠くからは謎の生き物の鳴き声が聞こえてくる。どうやらここはけっこうな山奥らしい。
「まあ落ち着きたまへよ、媚び太くん。気がつかれたらきっと、私たちまであの湯浴みをするはめになるぞ」
静寂は修行をするのも人に修行をさせるのも大好きという、ちょっと困った性癖の持ち主だった。
「そうだね、静寂ちゃんは僕らを鍛えたくてたまらないみたいだしね」
静寂にとって痩せ細った媚び太とミソえもんは実に鍛えがいのある素材だ。
「私まで媚び太くんと一緒くたにされるのは心外だが、いらぬ修行は余計なお世話というものだ。さ、静寂ちゃんに気がつかれないうちに戻ろう」
「ちょっと引っかかることを言っているけど、早く戻ることには同意だよ。あんなシャワーを浴びたらただじゃすまないよ」
「ああ、滝壺が味噌汁になってしまうな」
「ミソえもんの身体は味噌でできていたの!?」
早く脱出するべきだとはわかっていても、突っ込まずにはいられない媚び太。何がそこまで彼を突っ込みに駆り立てるのだろう。
「なにその新事実!?どう見ても人間なのに衝撃的過ぎるよ!」
「おいおい、そんな大声を出したら静寂ちゃんに気がつかれてしまうぞ、媚び太くん」
媚び太が生き生きと突っ込んでいるうちに、気がついたらミソえもんは行きたいところに行けるドアをくぐり抜け、ドアを閉めようとしていた。
「しまった、はめられた!?」
「君の突っ込み精神には頭が下がるよ。それでは媚び太くん。仕上がりを楽しみにしているよ」
「なんの仕上がりだよ!」
しゅたっと手を上げ、ご丁寧にウインクまで残してミソえもんは、行きたいところに行けるドアを閉めた。
するとまるで最初からそこに何もなかったかのように、行きたいところに行けるドアは消え去った。
「くそ、よく考えたらあいつ生意気にも半身浴とかしてたじゃないか!味噌でなんてできちゃいないよ!」
「なんだ、やけに騒がしい突っ込みがすると思ったら媚び太殿ではないか。ここで会ったのも何かの縁、ともに滝業に励もう」
いつの間にか近くにいた静寂に、媚び太はどうにか言い逃れようと試みた。
「いやあ、静寂ちゃんと滝業したいのは山々なんだけど、ほら、僕って形から入るタイプでしょ?装束がないとちょっとできないなあ」
「なにを府抜けたことを言っているのだ。昔から日本男児たるもの葉っぱ一枚あればいいと言うだろう」
「いやあああ!葉っぱ一枚あってもよくないよおおお!」

葉っぱ一枚で滝業に臨んだ媚び太はてきめんに風邪を引いた。
「なんとかは風邪を引かないと言うが、媚び太くんは見事に引いたな。実に意外なことだ」
ミソえもんが寝込む媚び太の枕元で感心したように頷いた。
「誰のせいだよ!この薄情味噌野郎!」
風邪だというのに勢いよく突っ込みをいれたせいで、媚び太はごほごほと咳をした。
「おやおや。あれほど医者から、風邪のときは突っ込みを控えるように、と言われたのに」
「そんなこと言う医者いないから!風邪を引いたのも、突っ込みを入れなきゃならないのも誰のせいだよ!」
「まあ、落ち着きたまへよ、媚び太くん。今日のご飯は風邪を引いた君のために味噌味のおじやだぞ。なんと、味噌味のおじやだぞ!」
「風邪じゃなくてもミソえもんはいつも味噌味だろ!この味噌馬鹿め!」
喉が痛いだろうに頑張って突っ込んで偉いぞ、と感動すら覚えるミソえもんであった。

みそ(鳩胸)

媚び太にはそれくらいの役得があってもよさそうなものですね。

2017年11月15日 21時35分