2017年10月28日 21時08分
ミソえもん 帰ってきた暴虐無人男編 後編
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静寂の華奢な身体に迫る、暴虐無人男の丸太のような腕。まともに受けたらそれだけで致命傷になりうる、圧倒的な暴力。
「静寂ちゃん!」
思わず叫んだ媚び太の声をかきけすかのように、ずんと鈍い音が辺りに響いた。鉄槌を振り下ろしたかのような重たい一撃に、校庭に土煙がもうもうと立ち上る。
そこにいた誰もが息をのみ、静寂ちゃんの無惨な姿を想像した。
「相変わらず力任せな攻撃だ。当たらなければ意味はない、と前にも言ったのだがな」
場違いなほどに落ち着き払った声。
「なに、バカな!?」
いつの間にか背後にいる静寂に、暴虐無人男は驚愕の声をあげた。
「さっすが静寂ちゃん!華麗な体さばきだね!」
どんな時でも媚びることを忘れない媚び太である。その道のプロと言っても差し支えないだろう。
「ふっ!」
媚び太の声援なんぞ華麗にスルーして、静寂は暴虐無人男の膝裏に鋭い蹴りを繰り出した。
「ぬうっ!」
さしもの暴虐無人男もこれにはたまらず体勢を崩し膝をつく。
「いいぞ、いけーっ、静寂ちゃん!とどめだ!」
「はぁっ!」
媚び太の耳障りな声を吹き飛ばすような気合いの声。疾風のような飛び蹴りが暴虐無人男の無防備な首筋を薙いだ。
断末魔の声すらあげずに、重く鈍い音とともに校庭に倒れる暴虐無人男の巨体。
「やったあ、さすが静寂ちゃん!」
ひりついた緊張感に包まれた校庭の空気が弛緩し、わっと歓声があがった。
「よかった、暴虐無人男は倒されたぞ!」
「静寂ちゃんのおかげよ!」
「強すぎるぜ、静寂さま!」
無邪気に歓声をあげる生徒たちを前に、静寂は苦笑いを浮かべた。
「いちおう同じ学校の仲間なんだがな。誰か、暴虐無人男殿を保健室に運んでおいてはくれぬか!」
静寂の呼び掛けを待っていたかのように巨大な担架を持った生徒たちが出てくると、暴虐無人男の巨体を手際よく担架に乗せて運んでいった。
「いやあ、さすがは静寂ちゃん!暴虐無人男なんて相手にもならないね」
「媚び太殿はいつでも、媚び太殿だな」
うひひと気持ちの悪い照れ笑いをする媚び太に、静寂は氷のような冷ややかな目を向けた。