2017年10月26日 21時27分
お約束の花子 本屋さん編
タグ: お約束の花子
佐藤書店は花子の通学路にある個人経営のちいさな書店である。昔から花子は佐藤書店で少女漫画を買いあさっていたため、店主からはすっかり少女漫画の子と認知されていた。
今日は花子が毎月買っている少女漫画雑誌『ガーターベルト』の発売日である。ガーターベルトはその名前からもなんとなくわかるように、けっこうきわどい内容の性描写や昼ドラみたいにドロドロした話もあったりする、少女漫画と言っていいのか微妙なラインのものだった。
いささか激しい内容のせいもあり、昔は恥じらいながら買っていた花子であったが、今ではもう堂々とレジに出すようになっていた。
嗚呼、あの子に恥じらいやときめきといったものはなくなってしまったのか。
店主の佐藤文夫はありし日の花子を思いだし、時の流れの残酷さを嘆いた。文夫は人が恥じらうところを見て快感を覚える、ちょっと困った性癖の持ち主だった。
今日も我が物顔でガーターベルトを手に取ろうとする花子。ちょうど最後の一冊だったそれに手を伸ばす花子と同じタイミングで、細くしなやかな手が伸ばされた。
触れあう手と手。
私のガーターベルトよ!とキッと相手を睨み付けようとした花子の頬にパッと赤みがさした。
「あっ、山本さん。偶然だね」
しなやかな手の主はなんと健であった。花子は思わずぱっと手を引っ込めた。触れ合った指先がほんのりと熱をもったようだった。
「き、木村くん」
「山本さんもこの雑誌読んでるんだ」
「えぇっ、ちが、これは、その…」
内容が内容なので思わずごまかそうとする花子であるが、健は気がつかないようだった。
「面白いもんね、高沢医院の裏事情」
詳しい内容は割愛するが、昼ドラみたいにドロドロと浮気や復讐といったものが飛び交う内容の作品である。もちろん性描写もなかなか過激なものだ。
「そうなの!まさか院長と佐織が関係を持っていたなんてびっくりよね!」
「うん、僕も続きが気になってしょうがなくて」
「だよねぇ!院長婦人がどう逆襲するのか、もう気になって気になって」
そこで花子は、はたと気がついた。いくら先が気になってもガーターベルトは残り一冊しかないのだ。不幸なことに近所に他の書店はないし、どちらかが諦めなければならないのである。
「そんなに読みたいんなら山本さんに譲るよ。さっ、どうぞ」
健は爽やかな笑顔とともにガーターベルトを差し出した。
「えっ、でもそうしたら木村くんが読めなくなっちゃうよ」
「そうだねえ、じゃあ山本さんが読み終わったら僕に貸してくれないかな。そうしたら僕はただで読めちゃう」
いたずらっ子のように無邪気な笑みを見せる健に、花子はもうときめきコロンブスである。
真っ赤な顔でただこくこくと頷いて受けとる花子に、健はじゃあねと手を振り去っていった。
これだ、私が知っていたあの子が帰ってきたのだ!嗚呼、今日はなんと素晴らしい日だろう!
涙ぐみながらレジを打つ文夫に、変質者を見る目を向ける花子であった。
osamu
いい話だなー
2017年10月27日 23時23分
みそ(鳩胸)
こちらも読んでいただけるとはびっくりです。
ありがとうございます。
2017年10月27日 23時29分