みそ(鳩胸)の日記

2017年10月20日 22時34分

お約束の花子 相合い傘編

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『下校時刻となりました。部活動などの用事がない生徒はすみやかに下校してください』
下校を促す放送を聞きながら、花子は昇降口に立ち尽くしていた。
「雨じゃなかったらさっさと帰るわよ、まったく」
やりがいのない図書委員会の仕事が終わり、意気揚々と下校しようと思ったところでこの雨である。急に振りだした雨は、ざあざあとその勢いを増している。
傘を持っていない花子は途方に暮れていた。
「今日が発売日だっていうのに…」
今日は花子が毎月楽しみにしている、少女漫画雑誌の発売日だった。一刻も早く買って帰って読みたいというのに、この雨である。
心の中でお天気の神様を呪う花子に、爽やかな春風のような声がかけられた。
「あれ、山本さん。どうしたの、そんなところで?」
「あっ、木村くん。図書委員会の仕事があって残ってたんだけど、この雨で傘もなくて…。木村くんこそこんな時間までどうしたの?」
「いやあ、帰る前にひとりじゃん拳をしてたら、気がついたらこんな時間で」
趣味に没頭できる人なのね素敵!となるあたり、花子の頭はいつもお天気である。
「しかしすごい雨だね」
そう言いながら、健は傘立てから黒い大きな傘を引き抜いた。その傘を見て、花子は目をかっと見開いた。
これはもしや、相合い傘のチャンス!?
雨の日のお約束と言ったらそれしかない。さっきまでお天気の神様を呪っていた花子は、熱い感謝の念を送った。鮮やかな手のひら返しである。
「はい、山本さん」
しかし花子の予想というか期待を裏切り、健は余裕で二人は入れそうな傘を花子に差し出した。
「ふぇっ?」
思わず受けとる花子をよそに、健は鞄から折り畳み傘を取り出して広げた。
「じゃあね、山本さん。また明日ね!」
爽やかな笑顔とシトラスの香りを残して、健は雨のなか去っていった。
「な…」
これにはさすがに花子もがっかりかと思いきや。
「なんて準備のいい人なの、もしものときも安心ね!」
お約束をスルーされても、前向きな花子であった。

みそ(鳩胸)

今日はおやすみマッスル!

2017年10月20日 22時56分