みそ(鳩胸)の日記

2017年10月14日 20時57分

お約束の花子 ライバルはお嬢様!?編

タグ: お約束の花子

「あれ、エレナちゃんじゃない。久しぶりだね」
「えっ、あなたは花子!?なんでそんな今にもさらわれそうな体勢ですの!?」
「ああ、これには深い事情があってね」
米俵のごとく担がれながら遠い目をしている花子だが、深い事情なんて米粒ほどもない。
「山本さんのお友達?」
花子を担ぎながら涼しい顔をして健が聞く。花子を下ろして話をするという発想はないのだろうか。
「そうなの。幼なじみの」
「いやいや、とりあえず地面に下ろしてもらいなさいな花子。その体勢でお話をするのはいささかシュールにすぎますわ」
担ぎ担がれつつ話をしようとするふたりをエレナがとめた。見た目は個性的だが、常識はずれではないようだ。

というわけで保健室のテーブルについた3人。ちなみにそれぞれの前に配られた緑茶はエレナが淹れたものである。
「わたくしはカトリーヌ=エレナと申します。遠く英国の地からはるばる語学留学に来ましたの。父は世界的に有名な大企業の社長、母は世界的に有名なピアニストで、わたくしは生粋のお嬢様ですのよ!」
高らかに自己紹介するエレナを、花子と健はお茶を飲みながら見守った。
絶妙な塩梅の淹れ加減に健は思わず目を見張った。どう考えても目を見張るべきはそこではない。
「っていう設定でね」
あっさりと言う花子に、お茶をしみじみと眺めながらへえと頷く健。それにも関わらず、堂々と胸を張るエレナのメンタルは鋼の如しである。
「あらためまして、この子は私の幼なじみの加藤エレナちゃん。ごりごりの日本国籍の日本育ちよ」
「パパは日本人、ママはアメリカ人のハーフですのよ!英語はさっぱりわかりませんわ!」
なぜか胸を張って言うエレナ。彼女の金髪碧眼は母親ゆずりらしい。
「おうちは加藤商店っていう和菓子屋さんで」
「つまりパパはパティシエなのですわ!」
和菓子屋さんにパティシエとはこれいかに、と疑問に思わず素直に頷く健は話を聞いているのだろうか。
「エレナちゃんは和菓子屋さんを継ぐために頑張ってお手伝いしているんだよね」
「私もゆくゆくは立派なパティシエールになってみせますわ!」
和菓子職人でいいじゃない、とつっこまずに「おお~」と素直に感心した様子で拍手をする健。
「頑張ってね、加藤さん!僕も応援するよ!」
健は感極まったようにエレナの手をがしっと握りしめた。思わぬ展開に赤くなるエレナと、ムムっとする花子。
ちなみに健の脳内では次のような計算が繰り広げられていた。

エレナは和菓子屋さんの娘→和菓子は美味しい→エレナと仲良くなれば美味しい和菓子をもらえる!?

和菓子に目がない健の、食欲にまみれた完璧なプランだった。しかしその意図をエレナや花子がわかるはずもなく。
「なっ、い、いきなり手を握るなんて、ここはハレンチ学園ですわ~!」
健の手を振り払うと、エレナは脱兎のごとく保健室を出ていった。
「しまった、和菓子が遠のいたか…」
「これでエレナちゃんが木村くんを意識するようになったら、エレナちゃんは私のライバル。それはそれでお約束展開になるのかしら…」
「あんたたち元気なら授業出なさいよ」
どうでもいいことで頭を悩ませるふたりを、保健室の金山先生が呆れたように追い出した。

みそ(鳩胸)

保健室の金山先生はとてもおおらかなのです。
愛称はグレートマザー。

2017年10月14日 21時43分