2017年10月08日 22時38分
やれゆけ、味噌パンマン! 第三話「今度こそ味噌パンマン誕生 前編」
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命をかけてでも守ろうと誓ったはずなのに、僕は彼女を守れなかった。手の中で失われていく命の感触。
冷えていく彼女の体に触れているときに、僕は初めて気がついた。ひょっとしたら僕は、彼女に恋をしていたのかもしれないと。
「あ、あいつは、毒をまいたテロリストじゃないか!?」
「まさか、また毒をまくつもりじゃ…」
「もういやぁ!」
パニックになり混乱する人々をよそに、味噌マンはナスマンのにやけ顔を殺意のこもった目で睨みつけていた。
「すっかりいい顔をするようになったじゃないかぁ、味噌マン。いい子ぶってた頃よりぃ、よっぽどいいぜえぇ」
「黙れ…」
「ウインナーちゃんを死なせちゃったのがぁ、そんなに悲しいのかいぃ。あぁ、かわいそうなウインナーちゃん。幼なじみのケチャップマンに裏切られぇ、挙げ句には身を呈して他人をかばって死ぬなんてぇ。まったくぅ、悲劇のヒロインにも程があるなあぁ」
「黙れ!」
怒りにまかせてナスマンに殴りかかるも、ひょいと踊るような足さばきでかわされてしまう。
「おっと、怖いなあぁ。そう慌てなさるなぁ。お前さんの相手は俺じゃなくてぇ、あいつだぜぇ」
ナスマンの視線の先には、いつの間にかバリケードが撤去されたメインホールへの扉があった。今なお、凶暴化した農薬派が暴虐の限りを尽くしているであろう、地獄への扉。
「よせ、その扉を開けたら…!」
「もう遅いぜぇ」
ぎいいと重く軋む音を立てて、地獄への扉が開かれた。そこには凶暴化した農薬派を従えたデスケチャップマンが立っていた。
エントランス左右にある通路から逃げ出そうとした人々の悲鳴が響き渡る。通路の先から押し寄せてきて、暴徒たちの手にかかったのだ。
椎茸マンが肉汁に濡れた中華包丁で暴徒に切りかかるもあっさりと囲まれて、柔らかな傘を食い破られた。
「ケチャップマン…」
「よう、味噌野郎。残念だが鬼ごっこももうおわりみたいだな。ん、肉の塊はどこに行った?」
不快そうに聞くデスケチャップマンから味噌マンは目をそらした。ナスマンがそれを見て、にやにやと嫌らしい笑みを浮かべる。
「おやおやぁ、黙ってないで教えてあげなよぉ。ウインナーちゃんは僕の目の前で無惨に殺されました、ってさあぁ!」
ナスマンが芝居がかった動作で指差した先には、肉汁を撒き散らして横たわるウインナーちゃんの姿があった。遠目にもわかるほどの、紛れもない致命傷。
「なっ…」
茫然としてウインナーちゃんの亡骸を見つめるデスケチャップマンの目は、揺れていた。
「すまない、ケチャップマン。僕がついていながら、守れなかった…。君は、君はこれで満足なのか!?」
うつむき肩を震わせるデスケチャップマンの姿を見て、味噌マンは説得できるのではないかと一縷の望みをかけた。
「幼なじみを、大勢の罪のない人を死なせて、これが君のやりたかったことなのか!?ケチャップマン、君がやりたかったことはこんなことじゃなかったはずだ!」
さらに肩を震わせるデスケチャップマンを、味噌マンは祈るような気持ちで見つめた。その震えが最高潮に達したとき、耳障りな声がエントランスを震わせた。
デスケチャップマンの哄笑だった。