みそ(鳩胸)の日記

2017年10月04日 21時33分

やれゆけ、味噌パンマン! 第二話「味噌パンマン誕生 中編」

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「く、苦しい、だ、誰か」
「体がいたいの!助けて、お母さん!」
「きゅ、救急車を、誰か早く!」
「いやぁ、誰か息子が、息子が…がはぁっ!」
体液を撒き散らし、次々と倒れていく人々。途切れることのない悲鳴。おもわぬ状況にパニックに陥ったのか、狂ったように暴れる者もいた。
さっきまでのお祭に浮かれていたコージーホールは、もうどこにもなかった。
「ここは、地獄だ…」
つぶやくプチトマトマンの頭も、暴徒の手によってプチュっと潰された。撒き散らされた種と果肉が、その悲劇を物語っていた。

「ようやく薬が効いてきたようだな、ナスマン!」
「あぁ、そうみたいだなぁ、ケチャップマン!」
二人の笑い声が不協和音となって通路に響き渡った。
「君たち何か知っているのか!?薬ってなんのことだ、ケチャップマン!」
不快な笑い声を止めるように、味噌マンが問い詰める。味噌マンにしては珍しく、叫ぶような声に恐怖が見え隠れしていた。
「俺に埋め込まれた無農薬を殺す薬、デス麹のことさ。こいつは不思議な薬でな、無農薬は容赦なく殺す。体液を撒き散らさせて、無惨な最後を迎えさせる。だが、農薬派がこの薬を接種するとどうなると思う?」
「な、何を言っているの、ケチャップマン!?いつものあなたに戻ってよ!」
「黙りやがれ、肉の塊が!」
悲痛な声をあげるウインナーちゃんに、罵倒を浴びせるケチャップマン。そこにはもう、種族の垣根を越えて寄り添おうとする二人の姿はなかった。
「こいつを農薬派が摂取するとなあ、理性を失い凶暴化して、何もかもを破壊するようになる。もしくはこの俺のように」
血のようにどす黒くなったケチャップマンの体が、蛇のようにうごめいた。
「デス麹に適合できれば、理性を保っていられる。そして体内でデス麹を生成して、延々とお前たち無農薬どもを殺し続けることができるのさ!」
「お前、最高にイカしてやがるぜぇ、ケチャップマン!いや、デスケチャップマン!」
「お前のおかげさ、ナスマン!こいつらを殺せる力を与えてくれて感謝してるぜ!」
再び響き渡る不協和音。味噌マンは悪夢を見ているような気持ちになったが、これは夢ではなくて紛れもない現実だ。悪夢よりも最低最悪な、現実。

「そんな…。なんで君がそんなものを…」
「お願いだから、元の明るいケチャップマンに戻ってよ!どうして、どうしてこんなになっちゃったの!?」
3人で希望に満ちた学生生活をおくれるはずだった。それが、どこでどう間違ってしまったのか。味噌マンにはまるでわからなかった。
「なんで、どうして、だと?すべてはお前らのせいじゃねえか!俺を裏切って、ふたりでこそこそと会いやがって!俺は見たぜ。そこの肉の塊が、味噌野郎に自分とおそろいの真っ赤なスカーフを巻いていたところをな」
「なっ、待ってくれケチャップマン!それは誤解だ!そのスカーフは」
「うるせえ!言い訳なら地獄でするんだな!」
大きく息を吸い込むデスケチャップマンに、味噌マンは猛烈に嫌な予感を抱いた。考えるよりも先に、ウインナーちゃんを抱えるようにして横に飛ぶ。
「ふっ!」
鋭く息を吐く音ともに、デスケチャップマンの口から弾丸のように液体が飛ばされた。デス麹を含んだ、致死性のケチャップ。
味噌マンの咄嗟の行動のおかげで、ウインナーちゃんはその餌食にならずにすんだ。
「ちっ、勘のいいやつだな」
あれに当たっていたらウインナーちゃんは死んでいたのかと思い、味噌マンの背中を冷たい汗が伝った。ウインナーちゃんは恐怖に震えていた。
「走るんだ、ウインナーちゃん!」
ウインナーちゃんの震えを感じ取った味噌マンは冷静になり、震えるその手を引いて駆け出した。手を引かれるウインナーちゃんの瞳は恐怖と困惑、そして後悔に揺れていた。
「無様に逃げ惑え、味噌野郎!肉の塊!お前らにもう逃げ場なんてねえぞ!」
「さあぁ、楽しいぃ楽しいぃ、鬼ごっこの始まりだあぁ」
デスケチャップマンとナスマンの壊れたような笑い声を背に、味噌マンは自分が犠牲になってでもウインナーちゃんだけは助けようと覚悟を決めた。