みそ(鳩胸)の日記

2017年09月05日 22時00分

やれゆけ、味噌パンマン! 第一話「ケチャップはその赤を深める 前編」

タグ: 味噌パンマン

雨に濡れた廃墟で、味噌パンマンは五平餅ちゃんのケチャップに染まった身体をそっと抱き抱えた。
真っ赤なケチャップが血のようにしたたり落ちて、味噌パンマンの鍛え抜かれた大胸筋を濡らす。赤いスカーフが味噌パンマンの首もとで悲しげに揺れる。
「お前はまた救えなかった。しょせんはそれがお前の限界なんだよ!」
狂ったように笑うケチャップマンを味噌パンマンは憐れむような目で見つめた。すっかり固くなってしまった五平餅ちゃんを静かに横たわらせると、雨に濡れぬよう身に纏っていたマントをかけた。
「ケチャップマン、もうこんなことはやめるんだ。無農薬派と農薬派で争っていてもなにも解決はしない。新たな悲しみが増えるだけだ」
「黙れ!お前たち無農薬派はいつも賢しげな物言いをする。俺たち農薬派を心の底ではバカにしているのが丸分かりなんだよ!」
「そんなわけない!僕らは同じ食アカで学んだ仲間じゃないか」
必死にうったえかけるも、ケチャップマンは聞く耳持たずであった。パンと違い、万が一にもケチャップに耳はない。
「仲間だと?ウインナーと一緒になって俺を嗤っていたお前がよくそんなこと言えるな!」
「違う!あれは、そうじゃない。そうじゃないんだ…」

これはまだ味噌パンマンがただの味噌マンだった頃の話だ。彼は王都にある王立万能食品アカデミー、通称食アカに通っていた。
食アカは世界各地から選りすぐりの食品や調味料が集まり、無農薬、農薬使用の垣根もなく誰もが平等に学べる学園であった。食品は無農薬は無農薬どうしで、農薬使用は農薬使用どうしで調理されることが暗黙の了解となっていた。

それに疑問を抱いた賢王ガスパチョが共に学んで互いの理解を深め、溝を埋めるための第一歩として作ったのが食アカである。同じ食品であるのにそんなことで区別されるのはおかしい、と考えていた味噌マンはこの理念に熱く胸を打たれ食アカの門をくぐったのであった。
そこで味噌マンは、西の果てからやってきたというケチャップマンとウインナーちゃんと出会った。

ケチャップマンとウインナーちゃんは幼なじみで兄妹のように育ってきた。いつも一緒にいた二人は、このままもずっとそうなのだろうと思っていた。
しかし、ケチャップマンは農薬使用で栽培されたトマトをもとにして作られていた農薬派。一方のウインナーちゃんは大自然の中で育てられた豚をもとにして作られており、加工の際に添加物も不使用であった。純粋なウインナーと言っていい彼女は無農薬派に分類された。
古くからの因習が根強く残る西の果てでは、二人が結ばれることはありえなかった。無農薬と農薬使用の厚い壁が立ちはだかる。それを理解した二人は駆け落ち同然に食アカへとやってきたのであった。

場末のひっそりとした居酒屋で、二人からその話を聞いた味噌マンは涙した。彼は純粋で涙もろく、お人好しだ。
「そうか、ここでなら二人はきっと一緒になれるよ。応援している」
ケチャップマンとウインナーちゃんは見つめあってはにかんだ。ケチャップマンの赤はまだ、オレンジに近い明朗な輝きを放っていた。

三人は講義に出るのも遊びに行くのも常に一緒だった。くだらないことで笑い、ケンカもして、いつの間にか仲直りもして。そんな風に日々を過ごす三人だったが、成績の差は徐々に開いていった。
味噌マンとウインナーちゃんの成績は食アカ開校以来の秀才と言われるほどで、文句なしのツートップだった。その一方でケチャップマンの成績は亀の歩みのごとく伸び悩み、下から数えた方が早かった。

秀才二人で勉強を教えるも亀の歩みが速まることはなく「どうせ俺は農薬に脳まで汚染されているんだ。お前ら無農薬様とは違ってな」と吐き捨てやさぐれていった。
酒に煙草に果てはギャンブルと落ちぶれていくケチャップマンは、講義に出ることも少なくなっていった。それを見るウインナーちゃんの目は悲しみに濡れていた。

みそ(鳩胸)

プーチンさん
無駄なことを考えているときが一番楽しいです。

2017年09月05日 22時04分

みみた

切ないね、大人向けだわ

2017年09月05日 22時10分

みそ(鳩胸)

ハピたんさん
そろそろなにかの一線を越えられそうな気がします。

2017年09月05日 22時11分

みそ(鳩胸)

みみたさん
食品界もメルヘンだけではないのです。

2017年09月05日 22時13分