私たち発酵食品には皆さんで言うところのラインにあたるような、独自の連絡システムがあります。これを発酵連絡網と言います。

私たちは自らの内にある麹菌や酵母菌などを分散させ光よりも早く、そしてどこまでも拡散させることができます。麹菌や酵母菌にメッセージを託して送り出すのです。人の目には見えませんが、大気に広がった菌は星屑のようにキラキラと輝き幻想的です。

どこにいても一瞬で届き、もちろん通信料もかからないこのシステムはとても便利なものです。
しかしひとつだけ欠点があります。それは、特定の誰かにメッセージを送れないということです。送ったメッセージは発酵界隈全体に届いてしまうのです。

うっかり身もだえしたくなるような口説き文句を送ってしまったら、もうひゅーひゅーと大騒ぎです。しばらくは煩悩大将と冷やかされます。若かりし頃の私がそう呼ばれていたのだから間違いなしです。
君の酵母菌にうずもれたい、などとはしたない言葉を託したものです。

最近では発酵界隈でもＩＴ化の波が押し寄せて、発酵連絡網は廃れぎみになってきています。ですが私はこの古き良きシステムが大好きです。
大くの菌が夜空を彩ったあの頃を、私は忘れられません。