みそ(及び腰)の日記

2025年01月01日 00時17分

ー祝福ー

あなたがこの世に生まれてきて、健やかに育ってくれる。
薄れゆく意識の中、それだけを願っていました。神様とか仏様とか、自分のために祈ったことはあんまりなかったから、ここぞとばかりにお祈りしました。
これまで私が生きてきた二十数年間。そのぶんの、今まで貯金してきたお願いがあるのなら、その全部を使いきるつもりで。なんとも私らしい、図々しい考えですね。
でも、最後のお願いなんだし、それくらいは許してもらえるはずです。
神様も仏様も、きっと寛容だったのでしょう。あなたは無事に、産声をあげてくれました。お祝いのラッパのようなその声は、最後に私の耳に届いて、しあわせで胸を震わせ、お腹の奥底にあたたかいものを残してくれました。
人生で最大の幸福が、こんな最後に訪れるだなんて。
私を生かしてきてくれた、すべてのものに、感謝しました。あなたを生み出してくれた、すべてのものに、それ以上に感謝しました。だけどやっぱり、心残りです。
あなたにふれて、声をかけて、ささいな反応に喜んで、胸に抱きしめて、ほおずりして、ちいさな手をにぎって、寝顔を見つめて、頭をなでて、やっぱりかわいくて、かわいくて、抱きしめて。
そうしてあげられないことが、思いっきり愛情を示せないことが、何よりも悔しくてたまりません。
人生で最大の悔しさも、最後の最後に訪れました。
せっかくあなたに出逢えたのに、なにもあげられないなんて。私のすべてをあげてでも、しあわせにしてあげたかった。
あなたは愛されて、望まれて、この世に生まれてきたんだって、私のぜんぶで、それを伝えてあげたかった。なのにそれが、なにひとつできないなんて。
この先あなたが、安心して生きていけるように、ここは怖い場所じゃないんだよって、キラキラしたものもたくさんあるんだよって、教えてあげたかった。
あなたのこの先の道にはきっと、私が歩いてきた道と同じように、たくさんの石が落ちていることでしょう。私がそうだったように、つまづいて、転んで、悔しい涙をたくさんたくさん流すと思います。
悔しい、苦しい、悲しい、さみしい、そんな気持ちたちをいっぱい味わうことになるでしょう。きっとほかのひとより、ずっと早いうちから。
そんな気持ち知らないでほしいけど、だけど、どうかきちんと、受けとめてください。放り投げたりしないで、胸に受けとめて、よしよしって、なでてあげてください。
それはいつかはきっと、誰もが味わうことになる気持ちです。ずっとけがひとつなく、痛みも知らずに歩いていってほしいけど、いつかは誰もがつまづく石です。
それをひとよりも多く味わって、受けとめて、なでてきたあなたは、誰よりもやさしくなれます。
誰かの痛みを、わかろうとして、寄り添えるひとになれます。それがきっと、あなたをしあわせへと導いてくれます。
やさしさで示される道しるべ。
その先に待つものはきっと、あなたの宝物になるでしょう。あなたが私の、一番の宝物になったように。
こわがらないで、おそれないで、最初の一歩を踏み出して、たくましくいきなさい。
だいじょうぶ。だってあなたは、私の子どもだもの。愛されて、祝福されて、生まれてきたのだから。