みそ(業務用)の日記

2023年04月15日 20時53分

悲しみに咲く

また悲しみを纏って歩き出すあなたを、私は苛立たしい気持ちで見ていた。
まるで世界中の不幸を背負ったような顔をしていて、他者を寄せ付けない雰囲気を出している。その壁を作っているのは自分自身なくせして、影では孤独だと嘆いているのを私は知っている。
私を死なせて、自分からそれを選んだくせに。

あなたの中の私が死んでいるのに気がついたのはいつだったのだろう。
いつも一定の手順で、義務のように私を抱くようになったとき。
おそろいで買ったものを、私だけがつけていたとき。
愛情を示す言葉を、せがまないと言ってくれないようになったとき。
私の好きなものを、理解してくれようとしなくなったとき。
咲き誇る花を見ても、心が動かなくなったとき。

そう、私たちは花を見るのが好きだった。
花の好きな私に合わせて、あなたも好きになってくれた。
絨毯のように広がる菜の花。
夏の朝にぽつんと咲いた朝顔。
旅先で見つけたコスモス。
聖夜を祝福するポインセチア。
季節ごとに咲いた花々が、私たちを結びつけていた。どんな花を見ても思い出がよみがえってしまうくらいに。
それなのにあなたは、いつからか花に興味を抱かなくなっていた。偽りの感動の言葉しか、出てこなくなっていた。
あなたの目は花を通り過ぎて、ほかの何かを見ていた。

どうしてあなたが、花に興味を失ってしまったのか。あんなにも綺麗だと、感動に目を細めていたのに。
考えて考えて、私は気がついてしまった。
あなたの中の私は、もう掘り返せないほど、埋葬されてしまっていることに。散ってしまった花びらが戻ることがないように、それは不可逆的な終わりだった。
私はこんなにも生きて、あなたを求めているというのに。
そんな不幸なことがあってたまるかと、泣きわめきたかった。こんな不公平が許されていいのかと、訴えたかった。
だって私の中のあなたはその間にも大きくなって、居場所を求めて、巣食っていたというのに。私の中にいるあなたは、まだ生きている。
そしてただの他人になったあなたがくれないものを、私に与え続けている。
熱い眼差しを、愛の言葉を、乾きを潤す指先を。
ぬくもり以外のものを、ぜんぶぜんぶくれる。

それでも、あなたの中の私は死んでいる。何もない空虚な場所で、土に埋もれている。
私が埋まったところから、せめて花でも咲いていればいいのに。
どんな醜い花でもいいから、私を思い出すよすがにしてほしい。
それがあなたの慰めになるのかわからないけど、馬鹿なやつだったと嘲笑ってくれてもいいから、ただ一輪の花を、咲かせてほしい。