みそ(鳩胸)の日記

2023年03月18日 19時52分

晴天の辟易

晴れた休日の朝にはまいってしまう。
遮光カーテンの隙間から入る光に急かされて、日頃の疲れを取るため二度寝を決め込もうとしていたのを責められてる気持ちになる。
起きたところで楽しい予定があるわけじゃない。平日の間に溜まった食器や洗濯物が待っているだけだ。
目をつむり、買ったばかりでふかふかの羽毛布団に甘えるようにうじうじするも、ため息交じりに起きてしまう。お昼寝しようと心に決めて。
トイレをすませて顔を洗い、洗濯機を回す。それだけでひと仕事終えた気持ちになったが、何かを忘れているような気がする。あ、そうだ、柔軟剤だ。
お昼のテレビで話題になってた柔軟剤を、昨日激安の量販店で買ってきていたのをすっかり忘れていた。どぎつい色合いの花がわさわさと咲いたパッケージ。
昨日は仕事帰りで疲れていたからパッケージをよく見てなかったけど、これひょっとしたらにおいもどぎついのでは。名前からして海外製っぽいしその可能性はありそう。
1日履いたブーツを嗅ぐような思いでキャップを開けると、甘ったるいにおいがむわっとひろがった。なるほど、確かにこのどぎつい花からはこれくらい強いにおいがしそうだ。
なんだっけほら、アマゾンとか南国とかに咲いてる花。そんな感じのにおい。嗅いだことないけど。
このにおいがする服を着るのかとちょっとためらいつつも、試しに少し入れてみた。だってほら、使わなきゃもったいないし。
仕上がりが怖いなと思いつつ、昨日の残り物で適当に朝食を済ませて、シンクに溜まった汚れ物を片付けた。その間も洗剤よりも強いにおいが洗濯機から漂っているのが気になって仕方がなかった。
残り時間を見るとまだしばらくあるので、ついでにとトイレとお風呂も掃除してしまうことにした。
いつもなら水回りの汚れと格闘しているときは謎の集中力があるのに、今日は南国の花のにおいのせいかあまり集中できない。
指定の分量より少ない量を入れたはずなのにこのにおいとは。あの柔軟剤が生まれた国とこの国では、においの基準みたいなものが違うのだろうか。どの国か知らないけど強いにおいを好むみたいだ。
だとすると食べ物とかも濃い味付けだろうし、あんまり行きたくないな。そもそも言葉が通じないところに行くなんて怖い。無理。高値で何かを売りつけられそうな気がする。そしてしまいには悪い人に騙されて見世物小屋みたいなところに売られて。
そんなバカみたいな妄想をしているうちにいつの間にか掃除は終わっていた。見たか、やればできるんだ、わたしは。
謎に勝ち誇った気持ちに洗濯終わりのピーピーという音が水を差した。休む暇もない、休日なのに。
洗濯機の周りにはいつにない甘い香りが漂っている。うーん、やっぱりこれはキツすぎないか。こんなにおいを朝の満員電車で振りまいていたら視線が突き刺さる気がする。
あっ、でも、それが出会いのきっかけになるかも。お姉さんいいにおいしますね、って。そんな変態みたいな男は嫌だ。願い下げだ。
また始まりそうになったバカみたいな妄想を止めて、潔く洗濯機の蓋を開けた。強烈なにおいが襲ってくるかと思いきや、覚悟してたほどではない。
嗅ぎ慣れてきたのか、これはこれで悪くないのではと思えてくる。ほら、ニラとかにんにくとか、においの強いやつでも食べてるうちに気にならなくなってくる感じで。ちょっと違うか。
洗いたての洗濯物をかごに詰め込んで狭いベランダに出る。
バサバサとシワを伸ばすときににおいが広がり、これは動くたびににおいを振りまいてしまうなとちょっとおののく。まあでも、乾いた頃には程よいにおいになっているでしょ。
楽観的な気持ちで晴天のもとに広がるバスタオルとかを見ていると達成感が湧いてきた。とりあえずやるべきことはやった。
薄汚れた手すりに手をついて景色を見ると、青空の下に休日らしい喧騒が広がっている。出かけるのも悪くないかなとちらっと思ったけど、やっぱりやめた。
急に声をかけて一緒に出かけてくれる相手もいないし、行きたい場所もないし、出かける必要もないし。
ないないづくしだなあと苦笑いしてしまう。でもまあ、こんなにいい天気なんだし、わたしがネガティブなことでバランスを取っているんだ。
なんのバランスかはわからないけど、そう思っておくことにした。