ミッソ・マングローブの日記

2022年01月09日 23時07分

また会えるから 前編

冬枯れの木のように乾き、やせ細った体。何かの実験をしているかのようにいろんな管に繋がれて、機械の平坦な音がかろうじて生きていることを伝えてくれる。まだ、そこに命があることを。
私を見てくしゃっと笑った目も、やさしく頭をなでてくれた手も、もう動くことはない。ただ静かに、最後のときを待ち受けるのみ。
あかぎれて、長年の農作業でぶ厚くなったあの手が、こんなに弱々しくなるなんて。握りしめるとひんやり冷たく、血なんて通ってないみたいに、枯れ葉のようにかさかさとしている。
もちろん、私の手を握り返してなんかくれない。その手を離したのは私なのに、もう一度、握り返してほしいなんて思ってしまう。
私はいつまで経っても身勝手で、どうしようもない孫だ。嫌だけどやはり、あの母の血を引いているのだろう。

私の父親は、生まれたばかりの私と母を捨てて、家を出て行った。
大学在学中に妊娠して、中退して父と結婚した母にはろくに働いた経験もなかった。その結果、母とのふたり暮らしはすぐに行き詰まり、実家を頼ることになった。
祖父は何も言わずに私たちを迎えてくれた。
祖母は母が大学に通い始めたころに病気で亡くなっており、祖父はそれからひとりで暮らしていた。祖母の菩提を弔いながら、祖父は代々続く農地で米作りに励んでいた。
大学に通う娘が苦労しないように。
それだけを思って必死に働いてきたのに、久しぶりに里帰りしてきた娘の腹は大きく膨らみ、その隣には軽薄そうな男がいた。
これまでで一番大きな雷を落としそうになったが、あいつの仏前だとぐっとこらえて、未熟なふたりの関係を了承した。
そうして私は生まれて、それから間もなくして、父は母のもとを去った。そう言うとかっこよく聞こえるかもしれないけど、なんのことはない、ただ逃げただけだ。
生まれたばかりの私と、母親になった恋人と、それにまつわる責任とか、そういったものたちから。
ちょっと出かけてくるとふらりと家を出て、それから音信不通。共通の友人に聞くも誰も彼の居場所に心当たりはなく、実家だと教えられていた場所はデタラメだった。
母は父に何かと理由をつけられ、父の実家に挨拶に行っていなかった。ひとの言うことを疑うことがない、母らしい話だ。
捨てられた母と乳飲み子の私は、祖父を頼るしかなかった。

実家に戻った母は祖父の仕事を手伝った。と言っても、私の子守をしながらだから、それほどハードなことはしていない。主に家事だ。
しかし一人暮らしをしていたにも関わらず、母は家事をほとんどできなかった。米を炊かせれば半生かベチャベチャ。掃除をさせれば余計に散らかる。洗濯をさせれば生乾きでも取り込む。裁縫なんて危なっかしくて見ていられない。
祖父にとってこれほどの誤算はなかっただろう。まさか自分の娘が、これほどまでに家事ができなかったなんて。あいつはあんなにテキパキと家事をこなしていたのにこうも違うのかと、祖父はまた祖母のありがたみを思い知った。
それでもお前はこうして育ったのだから母親というのは不思議なものだと、祖父は私を見てしみじみと言った。
私が幼稚園に通うくらいの年齢になると、母も農作業を手伝うことになった。何はともあれこれで一段落だし、少しは生活も落ち着くだろうと祖父はひと安心した。
それが新たな波乱の幕開けになるとも知らずに。

τеκιτσμ

なんか超続き気になるやつだ!

2022年01月09日 23時12分

ミッソ・マングローブ

τеκιτσμさん 私も気になります、続きは寝ながら考えます。明日にはあげられるといいなあ。

2022年01月09日 23時25分

たくみん

味噌さんすげぇ(*‘ω‘ *)

2022年01月09日 23時38分

ミッソ・マングローブ

たくみんさん ありがとうございます、早めに続きも書きたいものです。

2022年01月10日 00時08分