お肉食べ太郎の日記

2019年08月14日 00時46分

さっき考えた

画面の中では煌びやかな衣装や軍服に身を包んだ貴族達が、音楽に合わせて優雅なステップを踏んでいる。
仮面で素顔を隠した婦人は艶めかしく微笑み、口髭を蓄えた紳士は姿勢正しく勇ましい。

ヨーロッパ貴族の男性の多くが、口髭を蓄えている。正しく言うと、そのように描写される。
皆様が普段何気なく目にして、さして気にしない貴族の口髭という小道具の真実を、ご覧に入れたい。

バジリスク古墳から出土したスキタイ人像に口髭が描かれていることは、良く知られている(wikipedia)。
口髭文化は、紀元前300年には既に存在していたということになる。

ではなぜ古来より、男性は髭を伸ばすのだろうか。
そも髭は、多くの場合男性に限って顔面に表れる。
稀に女性にも髭のような産毛は見られるし、男性の身体を持つ女性も世には少なくないが、今回は例外としたい。
髭は発達した筋肉と同じように男性性の象徴であり、衆目に晒すことができる男根、と言い換えることができる。
髭を蓄えた戦士や軍人は、それによって自らが精強な男性であるということを表現しているのである。
女性の乳房がしばしば母性の象徴として見られるように、髭が好まれる理由は、本能に根ざした装飾だからなのである。
孔雀の美しい羽根模様や、ライオンのたてがみのようなもの、という捉え方ができる。

ヨーロッパ貴族に話を戻す。
貴族男性には、軍属の者も多い。
彼らを表現するのに髭を用いる理由は、ご理解いただけたことと思う。

ではなぜ、あご髭ではなく口髭なのか。
それは中世ヨーロッパの仮面舞踏会文化に由来している。

参加者は素顔を仮面に隠して舞踏会に臨む。
自分を隠し、匿名性の中で噂話や恋に興じるのである。

もちろん、身体的特徴やふとした仕草などで相手が誰なのか、ということは比較的容易に想像ができるだろう。
「あぁ、まるで私の心臓を鷲掴みにするような情熱的な流し目。口許のほくろ、首もとに指をやる癖。間違いなく彼女はマクミラン夫人(仮)だ」
といった風に。
しかしそこは仮面舞踏会。
ドブレー氏(仮)は「マクミラン夫人、私めと踊っていただけませんか」と誘ってはいけない。
二人はその夜に初めて出会い、情熱的な恋に落ちる、という筋書きでなければいけないのだ。

ドブレー氏は貴族の次男、陸軍に所属し、勲章を授かる程の成果と名声を得ている。

一方マクミラン夫人は銀行家の妻であり、若く美しいが夫と娘を持つ身。

二人が再び出会う機会とマクミラン夫人の生活を守るためには、二人の恋は匿名性に守られている必要がある。
だからこその仮面舞踏会であると言える。

ではそこで口髭はどのような役割を果たしているのか。
口髭は、口を隠すという記号として存在している。
「私は本当のことは言いません。私はただの紳士、あなたはただの淑女。今宵を愉しむためにはそれ以外必要ありません。あなたは安心して私に身を委ねることができます」
というサインなのである。

仮面と同じく見え透いた様式だが、その中でこそ育まれ得るものがある。
そこには、日本の武道などにも通じるものがあるのではないだろうか。


単なる植物機関に過ぎない髭だが、読み解けば深い趣きを感じることができる。
今後は皆様にも是非、口髭という小道具に少しだけ、注目していただきたい。


全部さっき考えた。

ぱすぴえ

素敵すぎて読みいってしまいました

2019年08月14日 00時53分

お肉食べ太郎

ぱすぴえさん ありがとうございます。
素敵、って言葉は何とも素敵ですね。
美人、とかカッコイイとかより嬉しくなってしまいますね。ぐへへ。

2019年08月14日 01時12分