お肉食べ太郎の日記

2018年04月06日 02時09分

ふたりの一幕

明転

アキ 台所から卓袱台へ夕飯を運ぶ
ジュン 上手の玄関ドアを開けて室内へ

アキ「おかえり」(嬉しそうに)
ジュン「ただいま」

アキ ジュンの背後にまわり、コートを脱がせながら
「今日もジャストタイミング! 私はきっとエスパー!」

ジュン ジャケットをハンガーにかけ、ネクタイを緩める
ジュン「アキ君、発達した科学は、魔法と見分けがつかんのだよ」
アキ「博士! スマホって素晴らしいです!」

ジュン アキに向き直る
ジュン「この時代に生まれたことに感謝だ。ところで、今日の夕飯は?」

アキ 背筋を伸ばし、胸を張る
アキ「はい博士! メザシであります! 江戸時代であります!」

ジュン 芝居がかった動作で膝をつき、天を仰ぐ
ジュン「おお、江戸時代週間はまだ終わらんというのですか!」

アキ ジュンの両肩に手を置き、目線を合わせる
アキ「月月火水木金金。江戸時代週間に終わりは訪れません。腐りきった幕府を打倒するその日まで!」

暗転

明転

卓袱台を挟んで向かい合う二人
ジュン メザシをかじり、驚いた顔でアキを見る
ジュン「なにこれメザシ! なんか入ってる!」

アキ 悪者のような笑みを浮かべる
アキ「ようやく気付いたかね、ジュン君。腹に桃屋のきざみショウガを入れておいたのだよ。そうとも知らずに君は、くっくっく」

ジュン 悔しげに表情を歪ませて
ジュン「アキ、なんという姑息な創意工夫を……。こんなの、愛情を感じずにはいられない。貴様、さては俺のことが好きだな!? 先に言っておきますが俺は君が好きだ!」

アキ「私も、私もジュン君が好き! 愛しているの! でも……」

ジュン 「でも?」

アキ「私にはわかっているの、あの人には敵わないって。 あんなに大きな、抱えきれないほどの愛情を毎月贈るなんて、私にはきっと、できないのよ……」

アキ ジュン 共に、部屋の奥にある巨大な米袋に視線を注ぎ

アキ「ホントありがたいわぁ……」

ジュン「うん。また電話したげて。喜ぶから」
ジュン 視線を手元に戻し、食事を再開する

アキ うんうんと頷き
アキ「もちろんするする。私はもう遠いところに行っちゃうけど、ジュン君のお母さんにはちゃんと電話する」

ジュン「え? 唐突! ってか俺にも電話して?」

アキ 芝居掛かった動作でしなだれ、袖を口元へ
アキ「実はもう、迎えの者も来ているの……」

ジュン「なに? 誰? お父さん?」

アキ 伏し目がちにジュンを見て
アキ「月のものが……」

3秒間、両者動きを止める

ジュン 箸を置き、居ずまいを正して
ジュン「アキさん、安心させてくれたのはわかりますが、食事中ですよ」

アキ 同じく居ずまいを正し、深く頭を下げ
アキ「申し訳ありませんでした」


暗転


徐々に点灯 薄明かりまで

布団の中、身を寄せ合って仰向けの二人

アキ 天井を見上げたまま
アキ「ねぇジュン君、江戸時代の夫婦が結婚する理由、知ってる?」

ジュン 顔だけをアキに向けて
ジュン「……わかんない。なに?」

アキ 同じく顔をジュンに向けて微笑み
アキ「『寒いから』だって」

ジュン 苦笑いを浮かべて
ジュン「落語かよ」
ジュン 全身でアキに向き直り、アキを抱きしめる

アキ ジュンを抱きしめ返して笑いながら
アキ「ジュン君、あったかくるしい」

ジュン アキを抱く腕を少しゆるめる
アキ 笑い止む

沈黙 5秒間

アキ「わたし、お米農家になるの、……イヤじゃないよ?」

ジュン 何も言わず、先程よりも強くアキを抱きしめる

沈黙 5秒間

アキ「ジュン君、あったかくるしぬ……」


暗転