お肉食べ太郎の日記

2018年04月05日 23時49分

決して夜中に 開けてはいけない

ふとした出来心だった。
少しくらいなら平気だろう、と。
本当に軽い気持ちで、その箱の蓋を開けてしまった。
大人として暮らしているうち、いつしかそれから目をそらすことが当たり前になってしまっていた、心の中の奇妙な箱。
昔はキラキラと輝いて見えたそれも、今では重くくすみ、まるで棺のようにすら思える。

ほんの少しだけ透かして覗いた箱の中には、混沌と怨念が渦を巻いている。
そして私は、怨念を成仏させる手段を持っている。
巧拙に拘らずに言えば、確かに私は手段をもっている。

私は手を差し伸べて、どろどろとした情念の上澄みをほんの少しだけ掬い、読み取り、形を与えて昇華させる。
ほんの戯れで、何の意味ももたない。
そういう行為を、そういう形に。
それが良くなかった。


ミュージシャンはよく
「メロディが天から降ってきた」
なんて言い方をする。
私はその表現に否定的な立場でいたい。
アウトプットはインプットからしか生まれない。
取り込んで、取り込んで、原型がわからない程に煮崩れ混沌としたインプットの海の中から這い出して来た亡者こそがアウトプットだ。
それはきっと、ギフトではない。


差し入れた私の手が眠りを脅かしたのか、それとも戯れに浄化された情念に妬みでも抱いたものか。
私を目指して箱からは続々と亡者が這い出す。

後悔しても遅い。
私の軽挙が彼らを起こした。
好奇心は猫を殺す。
毒食らわば皿まで。
腹を決めるしかなかった。
彼らを満たしてやらなければ、私に安寧の眠りは訪れないのだ。

それは戦いであり、交歓であり、共同作業のようでもあった。
私は彼らと対話し、彼らを削り上げ、見栄えを整えては叩き壊し、そしてまた整えた。

全てが終わった頃、気付けば空は明るくなり始め、小鳥は夜の終わりを歌っていた。

思うさま怨念を撒き散らした箱は、まるで眠りについたかのように静まり、虚ろな内壁を晒している。

心地よい虚脱を抱えた私は、ゆっくりと箱に歩み寄り、そして気付く。
たった今片付けた箱の向こうに、遥か地平まで続くかと思われる箱、箱、箱の群れ。
私は思わず空の箱に手をつき、へたりこむ。
箱を覗き込む形になった私は、息を呑んだ。

空になったと思っていたのに。

箱の底に、たったひとつだけ残っていたもの。

それは、寝不足、というものだった。




あ、あともう一個。
肌荒れ。