2018年02月17日 20時30分
-輪郭-
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静謐な冬の夜を、ひとりでやり過ごすにはあまりにもさみしく、指先は君の輪郭を求めてさ迷う。無意識にあけたベッドの左にまだ、君がいる気がして。
胸にくすぶったままの熱がいつまで経っても消えてくれなくて、陽炎のように君の姿を浮かび上がらせる。儚げなそれをそっと指先でなぞる。
ビロードのような手触りの豊かな髪。
あたたかく吸い付くような頬。
頼りなく華奢な白い首筋。
すっかりその感触が焼きついてしまった手。
控えめながらもうつくしく整った胸。
へその窪みまではっきりと思い出せるお腹。
小ぶりでぴんと張ったお尻。
しなやかだけどすぐにいたずらをしてくる足。
なぜだろう、君のからだのことはそのにおいまで思い出せるのに、君の顔は霞んでしまって、浮かんでこない。
何度も見つめあった眼。
数えきれないほどの甘いことばをささやいた耳。
においに敏感だった鼻。
さんざん愛を交わした唇。
そのすべてがピントの合わない写真みたいになっている。一瞬ピントが合ったように見えても、ノイズが邪魔をしてまたすぐにぼやけてしまう。
そして、君のうつくしい輪郭にはいつしか、別の誰かの面影が混じり、やがては僕も知らない誰かになり果てる。
こんなものを求めていたわけじゃないのに。ただ愛を求めて、おなじように与えたくて、君といたはずなのに。ただ僕は知らなかった。
愛なんてものは一度その純度を失えば、あとは互いを傷つけるだけの、都合のいい方便でしかなくなる。惰性で囁くたびに、深いところが淀んでいく、呪いにも似た言葉。
そのことを理解したときにはもう、手遅れだった。
僕の思いを見せかけだけの後悔と嘲笑うかのように、醜い欲望がまた別の標的を探しだす。きっともう二度と、君の顔を思い出せることはないのだろう。
そんな予感がしたところで他にこの渇きを満たす術を、僕は知らない。