2018年01月29日 20時46分
羊が一匹、羊が二匹。
タグ: 立花牧場物語
羊が三び…いや、まてよ。もそもこの羊はどこにいるのだ。まさかペットとして個人が複数の羊を飼うわけがあるまい。どこかのアルプスでもそんなことはないだろう。やはり牧場が妥当だろうか。
牧場となれば当然、羊以外の動物もたくさん飼育しているだろう。牛に鶏に、ひょっとしたら馬も飼育していて、乗馬体験なんかもできるかもしれない。
昼下がりのよく晴れたうららかな牧草地。そこを幸せそうなアベックが馬の背に揺られてぱかぱかとお散歩するのだろう。まったく、馬に蹴られる前にあとは若いふたりに任せて、おじさんは退散しなければなるまい。
おっと、話が逸れたな。ええと、なんの話だっけ。そうそう、牧場の話だったな。
牧場には広い自然が必要だ。となると場所はどこかの高原だろう。きっと緑豊かで、花の季節にはインスタ栄えするところに違いない。
名前は立花牧場。経営者一族の名字から名付けたという、なんともありがちな由来だが、客受けはあんがい悪くない。
外資系企業で出世街道を、サラブレッドのごとく駆け抜けた妻子持ちの男、立花恭平。このままいけばさらなる出世は約束されており、ゆくゆくは社長の椅子も夢ではない。
そんな彼はある月の綺麗な晩、息子と娘を見てふと思った。
あれ、こんなに大きかったっけな。
思い返すと入園式も運動会などのイベントにも、仕事を言い訳に恭平は参加せず、すべて妻の香保に任せきりであった。
これからも俺は、子どもたちの成長を見守れないのか。
虚しさにも似た思いが、恭平の胸に分厚い雲のように重く広がった。思わずじっと見つめる恭平に子どもたちは、他人を見るような目を返した。
ダメだ、このままじゃ、家族とは言えまい!
こうして恭平は次の日には辞表を提出し、家族とともに実家の山梨へと帰ったのだった。
立花家は地元でも有数の資産家で、土地も余っていた。立花牧場はその土地を利用して作られた牧場だ。
なぜ牧場なのかというと、自然とふれあい一緒に動物を育てることで、子どもたちとの距離も一気に縮まるに違いない、と安直に考えた結果だ。恭平は思い込んだら一途である。
最初の頃は初めて見る動物たちに、子どもたちも目を輝かせて世話を手伝った。しかしそれも数週間経つと、臭くて疲れるしめんどくさい、とあっさり手のひらを返した。
毎朝、日が昇る前から起きて、動物の世話をする恭平の背中には、いつしか哀愁が漂っていた。
がんばれ恭平!まけるな恭平!きっと明日は晴れる!
みそ(鳩胸)
それは全部ですね、ありがとうございます。
2018年01月29日 21時05分