2017年12月24日 19時12分
赤鼻のサンタ 後編
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「あん、なんだこのちびサンタ」
「ストロベリーシェイクみてえな色した服着やがって!」
どういう脅し文句だよ、と思ったがいかつい容貌をした男たちに睨みをきかされて足が震えてきた。はっきり言って、超こわい。
ヘビに睨まれたカエルはきっとこんな気分なんだろう。
「小山さん…!」
背中から聞こえてきた朝倉さんのすがるような声に、なんとかしなきゃとなけなしの勇気を振り絞った。ここで引き下がったら、こころまでちびになってしまう。
「まあまあ、お二人とも。今日はクリスマスじゃ。サンタに免じて許してはくれんかのう」
できる限りのサンタっぽい威厳を出して、僕は男たちを説得しようと試みた。
「ざけてんじゃねえぞ、ブッ飛ばされてえのか!」
「絞ってストロベリーシェイクにすんぞこらあ!」
こころない男たちに、僕の必死の説得も意味をなさないようだった。サンタを絞るとストロベリーシェイクになるとは初耳だ。
今にも掴みかかってきそうな男たちに、回れ右をして逃げ出したかったが後ろには朝倉さんがいる。もしここで逃げ出したら、僕は一生後悔するような気がした。
「落ち着いて、落ち着いてください。今日はせっかくのクリスマスですから、ね?こわいことはやめて、穏やかにいきましょうよ」
今度は人間として、良心に訴えかける作戦だ。彼らにもきっと、誰かとの大切なクリスマスの思い出があるはず。それを思い出せば穏やかな気持ちになる。
人間ならそういうものだ。
「うるせえよ、いいからすっこんでろちびサンタ!」
「顔面ストロベリーシェイクにしてやろうか!」
ダメだ、こいつら人間じゃない!話が通じない!ストロベリーシェイクマンに胸ぐらを掴まれて、いよいよダメかと思ったそのとき。
「こら、お前ら!何しているんだ!」
誰かが呼んでくれたのか、警備員さんが駆け付けてくれた。普段はなんとも思わない青い制服がなんとも頼もしい。よかった、これで助かった。
「ちっ、逃げるぞ」
「でもストロベリーシェイク飲めてない」
「んなもんいいから行くぞ!」
走り出そうとしたストロベリーシェイクマンに突き飛ばされて、僕は無様にも顔から地面に突っ込んだ。しかもそこには運悪くこぼれたストロベリーシェイク。
顔面にへばりつく甘い香りを放つぬるぬるとしたシェイクと、鈍い痛み。まったく、なんてクリスマスだ。
「大丈夫ですか、小山さん」
心配そうに見つめて、差し出してくれた朝倉さんの手を掴んで立ち上がった。助けるつもりが、カッコ悪いったらありゃしない。
「助けてくれてありがとうございました、小山さん。小山さんが来てくれて、私とても安心しました」
「僕は何もできていないよ」
自嘲気味に言うと、朝倉さんはぶんぶんと首を横に振り、掴んだ僕の手を両手で握った。すべすべとして、あたたかい。
「そんなことないです。すごく頼もしくて、カッコよかったですよ」
にこりと笑う彼女の頬は、薄紅色に染まっていた。
至近距離からのその笑顔にはものすごい破壊力があって、まっすぐに見つめられている僕は目を合わせていられなくなった。音が聞こえてしまうんじゃないか、ってくらいに心臓が太鼓のようにどこどこと脈打った。
どうしたらいいのかわからなくて、手で鼻をかくとべとりとした感触。真っ赤なストロベリーシェイクだ。
「これじゃ赤鼻のサンタだね」
照れ隠しにおどけて言うと、意外にも彼女はくすくすと笑った。いつもの冷たい声で返されるかと思ってたのに。
「私、嫌いじゃないですよ。小山さんのそういうところ」
ストロベリーシェイクなんかよりも甘酸っぱい彼女の言葉に、僕はもう負けを認めるしかなかった。