2017年12月24日 15時22分
赤鼻のサンタ 中編
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背の高いモデルのような美女と、背の低いしょぼくれたサンタがクリスマスのショッピングモールを歩く。
もちろん美女は朝倉さんで、サンタは僕だ。こういうアンバランスな組み合わせも、インスタ映えとやらがするのだろうか。やたらと写真を撮られている。
「クリスマスに美味しいケーキとコーヒーはいかがですか!」
営業スマイル全開の朝倉さんが愛想を振り撒いている。
「クリスマス限定のケーキ、ブレンドもあります!是非お立ち寄りください!」
このくらい僕にも愛想よく接してくれてもいいのになあ、と思って見ていると冷ややかな目を返された。
「なにをぼさっとしてるんですか。小山さんも宣伝してください」
さっきまでの宣伝用の声が嘘のような、低い声で言われる。
「そう言われても、朝倉さんが宣伝した方が人が来るでしょ」
「ほら、あそこに子どもたちがいるでしょ」
僕の言うことなど無視して、朝倉さんは子ども用の遊具が置いてあるコーナーを目で示した。たくさんの子どもと、それを見守るママさんというなんとも平和な光景。
「子どもはサンタさんが好きなものです。財布の紐を握っているママを動かすために、子どものこころを掴んできてください」
「そんな将を射るには先ず馬を射よみたいに言わなくても」
冗談めかして言うと無表情に見つめられた。綺麗な人の無表情にはなんとも言えない迫力がある。
「行ってきます」
「ご武運を」
本気なのか冗談なのかわからない朝倉さんの声援を背に、僕はわんぱく極まる子どもたちの群れに挑みかかった。
「はあ、ひどい目にあった」
なんだって子どもたちはあんなに下半身を攻め立てるのだろう。いくらスケジュールが空いているとは言え、あまり手荒に扱われるのは困る。
ママさんたちは話に夢中で庇ってくれなかった。むしろ子どもの相手役が来てくれてラッキー、くらいに思われていたのではないだろうか。宣伝する暇なんてとてもありゃしなかった。
「ただ働きってこういうことなのかな」
呟くとむなしくなって、朝倉さんの姿を探した。合流してとっとと店に戻ってしまおう。
フードコートの前に朝倉さんがいたが、なにやら様子がおかしい。どうやらいかつい二人組の男と揉めているようだった。
「おいおい、どうしてくれんだよ姉ちゃん」
「お前がぶつかったせいで、ストロベリーシェイクが服にかかっちまったじゃねえかよ」
そういう状況らしい。男の足元にはカップと、ドロリとした赤いシェイクが広がっていた。
ごちゃごちゃしたシルバーやドクロの飾りを着けているくせに、やけに可愛らしいものを頼むんだな。
「も、申し訳ございません」
どんなことがあっても動じず、はきはきと喋る朝倉さんの声が震えていた。周りの人は見て見ぬふりを決めこんでいるのか、助け船は出されそうにない。
となると僕が助けに入るしかないのだろうか。背が低く気も弱いことで有名で、ケンカなんてとてもできやしないこの僕が。
まあ、落ち着こう。朝倉さんなら自力で切り抜けられるかもしれないし、誰かが警備員さんを呼んできてくれているかもしれないし。
「これはあれだな、お詫びとしてオレたちに付き合ってもらうしかねえな」
「ああ、そうだな。たっぷりとストロベリーシェイクを拭いてもらおうか」
下品な笑い声をあげて、男が朝倉さんの腕を乱暴につかんだ。
「いやっ、離してっ!」
朝倉さんの悲鳴に、思わず体が前に出ていた。
僕が出ていってどうする。何にもできやしないぞ。そこで止まっておとなしく助けを待て。内心の思いとは裏腹に、僕の体は騒ぎの中心へと近づいていく。
気がつくと僕は、朝倉さんを守るように男たちの前に立ってた。