2017年12月23日 14時31分
赤鼻のサンタ 前編
タグ: 赤鼻のサンタ
「メリークリスマス。美味しいケーキはいかがですか」
大学二年生のクリスマス。友人たちは彼女と過ごすっていうのに、僕はサンタのコスプレをして呼び込みをしていた。
バイト先であるショッピングモール内にあるケーキ屋兼カフェの店先は、カップルや家族連れで大いに賑わっている。幸せを絵に描いたようなその光景に、僕は深いため息をついた。
手にしたケーキとコーヒーを売り込む看板がやけに重く感じられる。
「おい小山、ため息なんてついてないで、声出してお客さんを呼び込んで。暗いサンタなんて誰も求めちゃいないぞ!」
店長の松岡さんは今日も太陽のように暑苦しい。悪い人ではないのだが、やたらと高いテンションについていけなくて、いつも困惑してしまう。
「メリークリスマス。美味しいケーキはいかがですか」
「まだまだ!そんなもんじゃクリスマスに負けちまうぞ!」
何を言っているのかわからなかったが、負けと言われるのは癪なので腹から声を出した。
「メリークリスマス!美味しいケーキはいかがですか!」
「そうだ小山!もっと、もっとだ!お前の熱いパトスをメリークリスマスに乗せろおっ!」
「メリイイィークリスマアアァスっ!美味しいケーキはあああぁ、いかがですかああぁっ!」
「よくやった、小山!お前勝ったよ!クリスマスを制したよ!」
「松岡さん!」
「小山!」
僕と松岡さんは店先でひしと抱きあった。男同士にしか伝わらないなにかで、僕と松岡さんは結ばれたような気がした。
「店長、小山さんも店先で何してるんですか。ドン引きしちゃって誰もお店に入ってこられませんよ」
冷水のような声が僕たちに浴びせかけられた。
「おお、朝倉。お前も呼び込みをしてくれるのか」
店長の能天気な声に朝倉さんは鋭い目を返した。店長が朝倉さんに気を取られている隙に、僕はさりげなく店長から離れた。
モデル顔負けの顔とスタイルをしているが、どこか無愛想でこわい感じのする朝倉さんは僕と同じくバイトだ。
通っている大学も学年も同じで、何人もの男子生徒から告白されたがけんもほろろに断ったと風の噂に聞いている。
そんな朝倉さんが僕は苦手だ。
「呼び込みは当たっていますが、場所は違います。そこのサンタさんと一緒にモール内を回って、宣伝をしてこようという話になったんです」
僕がいない間に店内ではそんな話をしていたのか。
「なるほど、それはいい宣伝になりそうだな。よし、ビシッと行ってこい!」
「えっ、ちょっと待ってください」
それって朝倉さんと並んで歩く、ってことだろ。そんなことになったら。
「行ってまいります」
ずんずんと先に行く朝倉さんに、僕は慌てて追い付いた。すると回りからくすくすと忍び笑いが聞こえてくる。
「見て、あのサンタちっちゃい」
「隣の人はモデルみたいなのにね」
「なんだかおかしな組み合わせ」
男にしては背が低い僕がやたらと背の高い朝倉さんの隣に立つと、僕の背の低さがこれでもかってほど強調されてしまう。これだから僕は朝倉さんが苦手なんだ。
みそ(鳩胸)
コクのあるお味噌汁がプレゼントですね。
2017年12月23日 14時46分