2017年12月22日 22時30分
クリスマスなんて 後編
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クリスマスなんて関係なくせっせと残業までこなして狭い安アパートに帰ってきた。鞄を放り投げると、着替えもせずにベッドに倒れこんだ。
クリスマスだってのに、いいことなんてひとつもありゃしねえよ。
帰りに駅前のイルミネーションを眺めていたカップル達を思い出し、呪われろと念じた。どうせあいつらは今ごろ、せっせとセックスに勤しんでいるんだろう。
少しは気晴らしになるかもしれんと、枕元にあるリモコンでテレビをつけた。クリスマスらしく賑やかで華やかな歌番組がやっている。見るともなしに眺めていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
もう終電すらない時間だ、ってのにどこのどいつだ。
アポなしの来客なんて、どうせろくなもんじゃない。そう思い無視しようとしたが。
ピンポーン ピンポーン ピピピンポーン。
「ああもう、うるせえな!」
ベッドから起き上がり、足音荒く玄関に向かった。
出るかどうかはともかくとして、とりあえずどんなイカれ野郎か拝んでやろう。いきなりドアを開けて、怖そうなお兄さんが立っていたらヤバイからな。
魚眼レンズを覗くと、そこには大きな袋をぶら下げたサンタが立っていた。
「はあっ?」
意味がわからない。我が家にサンタがいらっしゃる予定なんかないし、そんなサプライズをやりそうな友人だって俺にはいない。
つまり、ドアの向こうにいるサンタは赤の他人だ。俺が部屋の中にいるのを知っているかのように、しつこくチャイムを鳴らし続けている。
「なんなんだよ、こいつ…」
急に部屋の温度が下がったような気がする。
よく見ると袋から木の枝のようなものが飛び出していた。枝の分岐点の少し下に、金色に光る何かが見える。
目を凝らしてみると、枝の正体がわかっちまった。枝先だと思っていた部分はめちゃくちゃに折れ曲がった指先で、金色に光っているのは腕時計だ。
見覚えのある、上司の腕時計。袋からは血だろうか、赤黒い液体がぽたりぽたりと垂れていた。
「ひぃっ!」
世にも情けない声をあげて、尻餅をついた。
「メリークリスマス!メリークリスマス!」
俺の声に気がついたのか、サンタが陽気な声で連呼し、ドアをどんどんと叩きだした。
「うわあああ!」
悲鳴をあげてベッドに飛び込み、頭から布団を被った。 ガタガタと体が震えているのは、寒さのせいだけじゃないだろう。
なんなんだよ、あのイカれ野郎は。上司を俺にプレゼントしようってえのか。
大の男が入るにはあからさまに狭すぎる、あの袋に無理やり押し込んで。人形を入れるみてえに、ぼきぼきと体のあちこちを折って。
今すぐ警察に電話をするべきだとわかっちゃいたが、体がガタガタと震えて動きやしねえ。玄関からはまだ狂ったように、メリークリスマスとドアドンの二重奏。
ちくしょう、これだからクリスマスなんて。
そう思った途端に、不愉快な二重奏が鳴りやんだ。聞こえるのは歌番組の音だけ。
どうやら奴は俺が出てこない、と悟って帰ったらしい。
「ははっ…」
口から乾いた笑いがもれ出した。どうやら俺は助かったようだ。
そうだよな、何も悪いことなんてしちゃいない俺が、あんなイカれ野郎に襲われるなんてあっちゃならないよな。上司は気の毒だが、まあ俺をイビり続けた罰ってことで。
おっと、とりあえず警察に電話しなきゃな。くそったれな上司のいない職場を想像するのはそれからでも遅くはない。
携帯を手に取ろうと布団から出ると、ドン、とベランダに続くガラス扉から鈍い音がした。
カーテンを開けると、そこにはにこやかな笑みで、袋を振り上げるサンタがいた。
「メリークリスマス!」
ガラスが割れる高い音。
これだからクリスマスなんて大嫌いなんだ。
osamu
ホラーですね(><)
2017年12月22日 23時00分
みそ(鳩胸)
こんなサンタは嫌だ、と思って書きました。
絶対に来てほしくないですね。
2017年12月22日 23時07分
みそ(鳩胸)
ありがとうございます。
書けるジャンルではないなと思っていましたが、書いてみると楽しかったです。
2017年12月23日 22時09分