2017年11月20日 22時00分
発酵探偵ミソーン file16
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「ニク、いや、越後屋から霜降味噌を取り戻そうと計画を練る二人のやり取りをたまたま見ちまったミリンが、二人は男女の仲だと誤解したわけだ」
「なんだ、それならあとはミリンに説明して依頼は終了じゃない」
あずきならそう言うと思ってたぜ。警戒心が強い猫だけあって、極力危険を避けたがる傾向がある。
「おいおい、カツオから事情だけ聞いてさよならするのか。お前さんには人情ってもんがないのか?」
「ないわよ。だって猫だもん」
なるほど、そりゃそうだ。猫なら猫情か。そんなもんあるのか。
「大方カツオから『ミソーンさんに霜降味噌奪還作戦を手伝って欲しいっす! 』とか頼まれたんでしょ。で、義理人情に厚いミソーンさんはあっさり引き受けた」
「流石はあずきさん、よくわかっていらっしゃる」
はぁー、とあずきは盛大にため息をついた。
「厄介な事ばかり引き受けてくるんだから、もう」
「悪いな、そういう性分なもんでね」
「よく知っているわよ。一度引き受けた依頼はなにがなんでも達成する、ってこともね」
あずきもだいぶ俺のやり方がわかってきたようだ。
「なあに、乗りかかった船ってやつだ」
「乗りかかった船から、別の船に乗り換えているじゃないの」
「できれば穏やかに暮らしたいんだがねえ」
呆れたように首を振られた。こいつもずいぶんと人間臭くなったもんだ。
「どの口が言うんだか。それで、ミリンにはこの事を話すの?」
「事情を知ったら止められかねんし、ミリンに危険が及ぶ可能性があるからな。この事は伏せておくさ」
「それもそうね。だけど、それじゃあ明日の報告はどうするのよ」
「報告ってなんのだ?」
「お肉の食べ過ぎで脳が働いてないのかしら。ミリンへの調査報告よ」
そうか、すっかり忘れていたぜ。明日はミリンに調査の進捗を報告する日だった。
「それは、そうだな…。世にも珍しい喋る猫、あずきのびっくりショー!で誤魔化すってのはどうだ?」
「頑張ってね、ミソーン」
音もなくソファーから飛び降りて、さっさと寝床に引っ込んじまいやがった。やれやれ、うまい言い逃れを考えておかないとな。