2017年10月29日 22時00分
発酵探偵ミソーン file13
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先代と写真に写っていた豪快な笑顔の男はカツオの父親、マグロ=サシミだ。今のカツオの姓であるダーシは、母親であるアマメの姓らしい。
なぜカツオが姓を変えることになったかというと、マグロが死んでしまったからだ。いや、カツオの言い方を借りれば殺されたからだ。越後屋によってな。
マグロはサシ味噌という名前の味噌蔵を営む、家族と仕事を大切にする真面目な男だった。味噌蔵の経営も順調で、素敵な奥さんに子どもまで産まれてまさに順風満帆。
そんなトントン拍子にうまくいっているように見えるサシミ家にはひとつ、大きな問題があった。それは一家の大黒柱であるマグロの博打好きだ。
最初は取引先の人に誘われて渋々行ったらしいが、これがどうしたもんか、初っぱなから大当たりをかましちまった。勝ち逃げしとけばいいものを、それで味をしめたマグロはまんまと通いつめるようになったわけだ。
真面目な人だし、たまには息抜きも必要なのかも。
アマメはそう思って目をつむっていたらしいが、そんなのんきにしていられない事態になった。マグロは味噌蔵の経営費にまで手をつけていたんだ。
アマメが気づいた頃にはもう、経営費は底を尽きかけていたそうだ。このままでは味噌蔵を閉めて、一家揃って路頭に迷ってしまう。それだけはなんとしても避けたい。
そんなとき、ある取引先が金を貸してくれると申し出てきた。毎度お馴染み、越後屋だ。こいつらは反吐が出るほど弱味につけこむのが上手いね。
マグロは一も二もなく借用書にサインをした。越後屋とはけっこうな付き合いがあり、信用していたそうだ。そのせいで借用書もろくに読まずにサインをしちまったらしい。
越後屋から借りた金で再び味噌蔵を営めるようになったマグロは、もう二度と博打はしないと誓い、これまで以上に真面目に働くようになったそうだ。暗く落ち込んでいた家庭も元の明るさを取り戻した。
そこから幸せな未来が待っていたらどれだけよかっただろうな。
そうしてあくせく味噌作りに励むマグロは、どんな肉もたちまち柔らかく極上の味わいにする味噌、霜降味噌を開発した。
「これは間違いなく売れるぞ。越後屋さんへの借金だってすぐ返せる!」
そう言って涙ながらに喜ぶマグロとアマメの姿を、カツオは今でも鮮明に覚えているそうだ。
完成した霜降味噌の試食として庭先でバーベキューの準備をしていると、黒塗りのワゴンが数台、味噌蔵を取り囲むように止まった。人の幸せを邪魔するのが何よりも大好きな連中、越後屋が現れたんだ。