2017年09月27日 22時00分
発酵探偵ミソーン file8
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カツオは俺を見るとハッと目を見開き驚いたようだったが、すぐさま営業スマイルを取り戻した。確かに俺は自称二枚目だが、そんなに驚かれるような外見ではないはずだ。
何かあるのだろうかと思ったが、まあ考えてわかるようなことではないだろう。
軽薄を絵に描いたような見かけからは想像できないほど丁寧に、肉の部位や焼き方の説明をされた。写真ではつけていたチャラチャラとしたピアスやネックレスを今はしていない。
席まで案内した店員がピアスをつけていたり、物と物との隙間にほこりがたまっていたりと、この店の安全や衛生面の管理にはちょっと甘いところがある。意地悪な姑が見たら嬉々として指摘することだろう。
その点カツオはアクセサリの類いは一切身につけず、きちんと爪まで短めに切り揃えて身なりは清潔そのもの。意地悪な姑も思わずにっこりだ。
カツオは見かけよりも真面目なやつらしい。まっ、それと浮気してるかどうかは別のことだがね。
「ありがとな、兄さん。食べるのが楽しみになるような説明だったぜ」
「そう言ってもらえて嬉しいっす。お客さんに楽しんで、美味しく食べてもらえるのが何よりの幸せっすからね」
爽やかな物言いに、なかなかかわいい笑顔じゃねえか。ホンが惚れた理由もわかる気がしてきたぜ。
「ところで兄さんよ」
探りを入れようとしたところで、カツオが厨房から呼ばれちまった。申し訳なさそうに仕事に戻るカツオをいいよいいよと見送って、俺は早速肉を焼くことにした。
これでこの店で美味噌が使われているかどうかがわかるな。柄にもなく緊張してきやがった。
看板メニューである、味噌漬け熟成カルビ。これを食べれば一発でわかるだろう。
網に肉を乗せるとじゅうじゅうと脂が滴り落ち、食欲をそそる香ばしい味噌のにおいが鼻をくすぐった。こいつは確かに旨そうだ。
カツオが言ったとおりに片面を20秒ほど焼いて裏返し、一呼吸置いて肉を取り皿に移す。少しばかり焦げた味噌が目からも誘惑してきやがる。
「いただきます」
慌てることなく紳士的に手を合わせる。食べ物への感謝はいつ、いかなる時でも忘れてはならない。先代はいくつも紳士のたしなみを教えてくれた。
箸で肉をつまみ上げ、口の中へとお迎えする。噛むたびににじみ出る肉汁に、焦げた味噌の香ばしさ。
豊かな大豆の風味。発酵が生み出すまろやかでいてこくのある旨味。鼻を抜けていくかおりがもたらす余韻。これはご飯が何杯でも食べられちまいそうだ。
とんでもなく旨い味噌を使っているが、マスターの言うように美味噌ではないな。かつて先代が少しだけ食べさせてくれた、美味噌の全てをなげうってでも食べたくなるあの味には及ばない。
しかしたいていの旨い味噌は知っているつもりだったが、俺にもまだまだ知らない味噌があるんだな。こいつはご機嫌だぜ。
麦酒もすすんでもう空いちまった。
「おかわりお持ちしました」
タイミングを見計らっていたかのように、カツオが麦酒を運んできた。ご丁寧にソーサーまで替えてくれている。
「おう、ありがとな」
礼を言ってさて話をと思ったが、カツオは他の客に呼ばれちまった。さすが人気店、閑古鳥が鳴くどっかの場末の居酒屋とは違うねえ。
冷えたグラスを持つとなにか違和感があった。
そうか、コルク地のコースターの表と裏がさっきと逆なんだな。俺は几帳面な方でそういうことが気になっちまう。
カツオも抜けているんだなと思いつつくるりと返すと、そこには角ばった字で『潮彩通り cafe&bar カエデ』と書かれていた。
おっと、こいつは思いもがけないラブレターだな。
目立たないようにコースターをコートのポケットに入れると、俺は何食わぬ顔でひとり焼き肉を満喫することにした。
くわふ
なぜか僕の頭の中では、さいとうたかをの江戸時代漫画で再生されてしまう。
あれ、ミソーンって舞台は西洋なんだよな・・
2017年09月27日 22時11分
みそ(鳩胸)
人さん
それ系ですね。週末にでもまとめたのを上げてみましょうかね。
2017年09月27日 22時47分
みそ(鳩胸)
くわふさん
それぞれのイメージがあるのは面白いし、いいと思います。
私の中では大正モダン的なイメージです。
2017年09月27日 22時51分
黒豆
味噌漬け熟成カルビ、食べたいにゃ
2017年09月27日 23時17分
みそ(鳩胸)
黒豆さん
お酒にもビールにも、味噌漬け熟成カルビ!
一人前 980円、大皿(4~5人前)で4000円となっております!
2017年09月27日 23時21分