2017年09月23日 22時00分
発酵探偵ミソーン file6
タグ: 発酵探偵
コージー博士とマリアさん、父娘二代に渡った夢の結晶である美味噌。父娘は美味噌に人々の幸せを託したんだが、これにはとんでもない性質が秘められていた。
それは美味噌を食べたものはたちまちその味の虜になってしまい、ある種の中毒症をひきおこすというものだった。
たかだか味噌にそんな性質を持たせちまうなんて、彼らは本当に天才だったんだな。
使い方次第では人に害をなすものになってしまう。このまま美味噌を世に出すわけにはいかない。
正義感の強かったマリアさんはそう思い、中毒症をひきおこさないように改良しようとした。
しかしそれを見過ごさない連中がいた。越後屋だ。どこまでも鼻のきくやつらだぜ。トリュフでも探した方が儲かるんじゃないのか。
やつらにとって強い中毒性のある美味噌は巨万の富を生み出す金の卵。無駄に悪知恵が働く連中だ、悪用しようと思えばいくらでもできる。
越後屋は美味噌を奪うため研究所に押し入り、マリアさんを追い詰めた。
マリアさんは人々を幸せにするはずの美味噌が、人に害をなすくらいならばと研究所を火にかけた。自らが犠牲になることもいとわずに。
焼け落ちていく美味噌に関する資料の束。美味噌の入った発酵樽。そしてマリアさんの肉体。
越後屋の黒い部分を知った先代が駆けつけた頃には、もうすべてが手遅れだった。地に膝をつき、己の無力さをただただ悔やんだという。
その後先代は火事の現場からひとつの発酵樽が持ち出され、越後屋の車に乗せられて走り去ったことを知った。それ以来、先代は越後屋を追い続けていた。
発酵樽の中身はおそらく美味噌で、越後屋は自前の研究所に持ち込みその成分を解読し、量産しようとしている。
解読が終わる前になんとしても美味噌を取り戻さなければならない。父娘の夢を金儲けの道具にさせてなるものか。
それが先代の意思であり、俺が先代から受け継いだ遺志だ。
もしも、たらふく亭の味噌ダレが美味噌を使ったものだったら、俺はなんとしてもそれを取り戻さなければならない。
それが俺なんかを拾っていっちょまえにしてくれた、先代に対する仁義だ。