2017年09月17日 22時00分
発酵探偵ミソーン file3
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親を事故で亡くし頼れる親類もいなかった俺は施設で育った。これがまたろくでもないとこで、やけに偉ぶった職員が昼夜を問わず子供達を怒鳴り散らし、教育と称して殴る蹴るなんてのもしょっちゅうだった。
ある程度、図体がでかくなりそれなりの分別もついてきたころ、俺は二人の仲間と共に施設を脱出した。
そのまま施設にいても、いずれは添加物工場なるところで一生奴隷のように働かされる、と風の噂に聞いていたからだ。施設と同じで最低限の生活は保証はされるのだろうが、そんなもんは生きながらにして死んでいるようなもんだ。
脱出の過程で仲間たちとははぐれちまったがあいつらなら大丈夫だろう。やたらと器用で抜け目のないやつらだ。きっとうまくやっているさ。
野良犬よりも薄汚れた俺は空腹にギラついた目をして夜の街をさ迷った。やがて控え目な灯りの今にも潰れそうだが、やけにうまそうなにおいが漂ってくる店を見つけて思わず飛び込んだ。そこが甘露庵だった。
その身一つで施設を抜け出し一文無しだった俺はとにかく飢えていて、暴力に頼ってでも何かを口にしたかった。まったく、空腹ほどこわくて切ないもんはないね。
飢えに任せて飛び込んだ店内は外観に負けず劣らず古くさかったが、不思議と清潔感は保たれていた。カウンターの奥にはマスターが、そしてマスターの前の席には気取った中折れ帽を被った紳士が座っていた。この紳士が俺に仁義や探偵のいろはを教えてくれた男、先代のミソーンだ。
マスターは今にも飛びかかってきそうな俺を警戒して身構えたが、先代は面白そうにニヤリと笑って手招きしてきた。
「若いの、今どきそんな眼をした奴は珍しい。どうだ、なんか食って話しでもせんか。この店の料理はどれも絶品だぞ。マスターはちょっと頑固で口うるさいがな」
「頑固で口うるさいは余計だ。大丈夫なのかミソーン、こんなのを店にあげて」
ぼろ雑巾みたいなものを身にまとい、ガリガリに痩せ細った俺はこんなの呼ばわりされても仕方がなかった。まともな店なら門前払いされてただろうよ。
「なあに、大丈夫さ。マスターの美味い料理で腹一杯にしてやれば、落ち着いて話をできるようになる。ほれ若いの、そんなとこに突っ立ってないで座りな」
でもよおと渋るマスターを無視して、先代は隣の椅子をがらりと引くとぽんぽんと叩き俺に座るように促した。
俺は先代の飄々とした態度に毒気を抜かれ、借りてきた猫のように大人しく椅子に座った。
黒豆
ミソーンの過去が明らかに!
2017年09月17日 22時14分
みそ(鳩胸)
過去編はまだ続く!かもしれない
2017年09月17日 22時25分