2017年09月13日 21時50分
明日のゴメス
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「明日こそは…」
ゴメスは海に沈みゆく夕陽を見つめていた。鮮やかなオレンジに照らされたその横顔は憂いをふくみ、ご自慢の肉体美もどこかしょぼくれて見えた。
それも無理はない。彼は今日も目標としているベンチプレス150キロを上げられなかったのだ。150キロを上げられたら、飼い主の吉岡さんから最高級のゴメスフード1ヶ月分をもらえることになっていた。
最高級ゴメスフードは、彼が現在食べているゴメスフードのおおよそ200倍の値段となっている。使われる食材はどれも最高品質なもので、その味は驚天動地だという。
「明日こそは…!」
ゴメスは夕陽に力強く誓うと、海に飛び込んだ。驚くほど綺麗なフォームの平泳ぎ。カエルよりも滑らかに、ゴメスは水を縫うようにして泳ぐ。彼は対岸に見える吉岡さんの家にいつも泳いで帰っている。もちろん、陸路を行った方が早く帰られる。
しかしゴメスの方向感覚は右も左も東西南北もわからないくらいなので、複雑に交差した陸路を行くとあっという間に迷子になってしまう。ゴツい体格に方向音痴というギャップが、ゴメスの根強い人気を支えている。
埠頭から遠い対岸に見える家に向かって真っ直ぐ泳ぐのが、ゴメスにとっては一番の近道なのだ。