2015年06月19日 23時28分
【朗読 Aloud~初夏~】感想
舞台俳優兼NHKドラマ俳優の「千代將太」さんが
「朗読」を演出/プロデュースする(=自身は朗読しない)という事で、
ちょっと興味はあったのですが、
ツイッターでその旨つぶやいたら誘われたので
下北沢のカフェ公演に行ってきました。
原作/脚本「森浩美」って誰だろ?
ぐらいに思ってたのですが、
現地でフライヤーを読むと
荻野目洋子、酒井法子や、
森川由加里のSHOW ME、
田原俊彦の抱きしめてtonight、
SMAPの青いイナズマ、Shake、ダイナマイト、
その他往年の名曲を多々書いていた作詞家さんでした。
(なんで今朗読の脚本書いてるんだろう?)
で、朗読自体はどういう構成、役者編成かと思ったら
1.「ふたり乗り」
2.「金魚掬い」
3.「虫メガネ」
4.「褒め屋」
と短編4編を総勢9人の読み手+ピアノで
演じるという、結構大掛かりなものでした。
※ 「朗読」は本来1人で演じるので「群読」ですね。
前半1.2.3.は、
大学を卒業して数年ぶりに女子会という事で
再会した女子3人のそれぞれの人生の物語。
●1.「ふたり乗り」
既婚、子有り、高校時代から付き合っていた彼と
4度別れて5度目で結婚、というおのろけっぽい話から、
旦那に「(高校時代のように)久しぶりに自転車、2人乗りしない?」と話しかけ、
それと子供がママの背中に抱きついて、という行為とを
「2人乗り」に掛けたのかな?と思わせるような終わり方。
特に涙腺を引かれるでもなく、まあ普通かな、と。
※ しかしこの時点で、
「朗読」というより「朗読劇」でもなく、
これは「朗読演劇」だな、と思いました。
本来「読み手」「語り手」となるべき各演者が、
お芝居と同様動き回るし、
「言葉」だけで感情その他を表現しきれていない
(役者の台詞下手、というだけではなく、そう演出されている)、
という感じでした。
本来朗読の元となる小説などは、
「本」そのものの文字の中に全ての状況から
登場人物の感情から所作からの全てを表していて
(ラノベなど絵が入る場合がありますが)、
朗読はそれを色々な立ち位置に立って(ナレーションから各登場人物から)
演じ分け、擬音すら表現してみせるものですが、
本劇/役者陣はさすがにそれが全部出来ていない。
例.驚きの表現を台詞だけで表現しきれず、
所作(身振り手振り、表情)までを使って、
やっと表現している感じ
(これは演出というよりも、役者としての身体表現に走ってしまったのかと)
また、そもそも「原作/脚本」とあるように、
本劇は「お芝居チック」に台詞だけでなく、
その所作まで含めて表現するように演出されたものかと思います。
役者さんは「台詞」だけでなく、
観せるものとして「身体表現」「所作」も普通に使います。
自分がいつも「朗読劇」を聴く声優さんは、そもそもが
アニメの「絵」や映画の「映像」の裏にいて、
身体表現その他ではなく、あくまでも「声」1つの中に
全ての感情から何からを込める、そのプロです。
その違いは、「どちらが上、下」ではないですが、
やはり「朗読」として聴くには、
役者さんのそれはちょっと物足りないものを感じました。
※ そもそも自分は「朗読」「朗読劇」を聴く時は、
出来るだけ目を瞑って、その台詞の中から
物語の世界を「想像」する事を楽しむのですが、
本劇のように「読み手」が動きまわり、演じまわると
目で追わないと状況が分からないので、
「音の世界」を楽しめない。
そこはちょっとガッカリでしたね。
※ その「動き」が重要になる劇ならともかく、
単なる「朗読」で表現しきれたものを、
逆に「俳優」が演じきれないから
「動きあり」にしたのではないか?
とも取れるぐらいに、
「読み」に上手さを感じられませんでした。
●2.「金魚掬い」
独身だけど一応彼はいる、という関係の女性の話になって、
しかし彼から「距離を置こう」という言葉の後、
まったく音信不通になってしまった。
そんな状況の中、地元のお祭りで
幼稚園の頃からずっと一緒だった幼なじみの男性と再会し、
昔そうしたように恋愛話のグチから始まって、
「もしあと10年いい旦那が出来なかったら、俺にしとくか?」
とさり気なく、告白/プロポーズされるという、
これまた良い方向で終わる話。
※ ここまで中心は女性で、男性俳優はほとんど
「ちょい役」的な出方が多く、
その辺りもちょっともの足りない(というかバランスが悪い)かな、
と。
●3.「虫メガネ」
既婚女性は家族のご飯の支度があるからと、
もう1人も用事があるからと、
それぞれ別れた後、
残された1人の女性が
「よし、決行するか!」と立ち上がります。
会社に入社してすぐ付き合い始めた同じ会社の彼とももう2年、
最近「忙しい」その他色々理由をつけて会う回数も減り、
またその態度もそっけない。
そこへ来て、会社のお局様が
「新人女性と歩いている所を見た」と告げ口してきた、、、
そして最近理由をつけては入れてくれなかった彼の部屋に、
今日「彼が出張に行く事」をチャンス!と、
潜入して”別のオンナの気配”を調べてやろう、と。
小学生の頃アリの生態観測で表彰された事を思い出し、
今の自分の行為を「虫メガネ」でアリを観察しているさまに例えます。
彼に部屋を調べ、コップを調べ、お風呂場を調べ、ベッドの裏まで調べてみても
”別のオンナの気配”は見つかりません。
疲れ果てて座り込む女性。
「自分は何をやっているんだろう?そもそも自分は
ここまでするほど”彼”の事が本気で好きだったのだろうか?」
と自分の気持ちそのものを疑い出した時、
彼の机の上に見た事のないデジタルカメラが・・・
で終わり。
このお話があった事で、1.2.のお話と「うまく組み合わさったなあ」、
「単なる幸せ話」で終わりにしなかったなあ、
という感じでした。
デジタルカメラの中に何があるのか?
自分の疑念は晴れたのか、
あるいは”別のオンナ”がそこに写っていたのか、
そこに触れずに終わらせる、この締め方、
余韻の与え方が「上手いなあ」と思わせる。
いっきにここまでの劇が「いいもの」に思えてきました。
で、ここで前半戦終了で、休憩タイム。
●4.「褒め屋」
(最初3.の続きかと思ってしまったのですが)
1.2.3.とは繋がりはなく、
単なる事務職OLから、自分がやりたかった洋風家具販売の
ベンチャー企業への転職、
そこでバリバリと働き、その仕事もドンドン周りから認められていった女性。
しかし、ここ数ヶ月、その様子に変化が起きている。
今まで通りに頑張れば頑張るほどに
・ 協調性がない
・ 自分勝手すぎる
と上司や同僚達から散々に言われ、
更には自分の資料を隠されたりと「イジメ」に近い
扱いまで受ける始末。
そして、ひさびさ残業もせずに疲れて家へ帰り、
強くもないお酒を飲んで泥酔し、
朝いきなりの電話に目を覚ます。
電話「○○様ですか?褒め屋ですが、お約束通り○○時の待ち合わせ、
場所はどこがよろしいでしょうか?」
最初イタ電詐欺電かと思ったが、転がるビールの缶からのそばに
自分が切り抜いた女性雑誌の「褒め屋」の記事が。
(この女性はなんでも切り抜いてスクラップブックにためる癖がある。)
そして、酔った挙句「自分が慰められたい」と「褒め屋」に
予約を入れた事を思い出す。
そして横浜「みなとみらい」で待ち合わせ。
ひさしぶりの自由な時間、そして外出。
ふと自分を振り返っていた所へ、「褒め屋」の彼が登場。
彼は自分よりいくつか年下の穏やかそうな青年。
話を聞くと「褒め屋」はアルバイトで、大学院生だという。
自分のプライドを守る為、「褒め屋」を頼んだのは
あくまでも酔っ払ったあげくの事、など色々な事を言うが、
彼はやさしく聞いてくれる。
そして彼に、「もっと自分の思ってる事、辛かった事、なんでもいいので
僕に言ってください」と押され、
会社でのグチから何からを言いながら
どんどんテンションを上げていく。
そして思い出すのは、昔の彼氏の事。
彼氏が取ってくれた青山のレストラン、
他人のミスのカバーで遅れた彼女、
そして彼氏が
「お疲れ様、先に始めちゃってるけど何を飲む?」など
気を使った台詞を言ってくれるのをまったくとりあわず、
自分のグチ(「なんでアイツのミスをあたしがカバーしなければいけないんだ!」など)を
ただ散々に言いまくる彼女。
そして、彼氏がついに怒ってしまった。
「・・・いい加減にしろ、ここに来て遅れた謝罪の一言もなく
またいつもの仕事のグチばかり。
毎回毎回俺は普通に話がしたいのに、お前のグチを聞かされるばかり。
はっきり言って俺はお前が今の仕事につく前の、ただのOLだった時の方が
よほど幸せだったよ!」と、捨て台詞を残して去っていく彼氏。
そんな想い出から現実に立ち返り、
「褒め屋」の彼に「こんな女のグチばかり聞かされて、疲れちゃうでしょ?」と
気を使う彼女。
しかし彼は、
「○○さんはほんと頑張ってるんだから、もっとグチっていいんですよ」
と気にする様子もなく彼女のグチを聞いてくれた。
その中で、どうしてそんなに人のグチを聞けるし褒める事が出来るのか、
という話になり、
彼「自分のオヤジが、ほんと自分ら子供達を褒めて育てたんです。
自分自転車の乗れるようになるのが遅かったので、
補助輪付きの自転車にずっと乗ってて友達に笑われたんです。
そして、補助輪を取る練習をして何度も何度も転んで、
ひざを擦りむいて・・・
でも、オヤジは『よくやった、よく頑張った、偉いぞ!』って
あたまをグシャグシャといつも撫でてくれたんです。
そんなオヤジに似たのかも知れません。」と。
そして、彼との会話の中でつい笑ってしまう彼女。
彼「今日、初めて笑ってくれましたね」
彼女は気づく、「笑ったのはいつぶりだろう・・・」と。
そうしてストレスを解消できた彼女、
彼女にご飯をおごってもらったお礼に、と今度は彼が
「アイスクリームを食べましょう」と。
彼女「こんなに他人のグチを聞いたりするのが上手いんだから、
○○君は褒め屋のプロになっちゃえばいいのに」
とつい言うが、
彼「いやあ、この仕事、きっと僕じゃプロにはなれないです・・・」
と、先日の出来事を話してくれる。
80過ぎのおばあちゃんからの依頼で、
おばあちゃん宅にてお茶を飲み、TVのリモコンの電池を替え、
と何気ない時間を過ごした後、時間が来て
「それじゃあ、お仕事はここまでですので」
と退散しようとした彼に
おばあちゃん「どうか泊まっていってくれないかい」と泣き出す。
仕事のルール上それが出来ない事を伝え、
家を後にする彼をずっと手を振って見送ったおばあちゃん。
彼は、
「この仕事って、結局本質的にはその人を救えないんです。
その人を救えるのはその人自身だけだから・・・」
と彼女に語ると、彼女も時計を見て時間に気付き、
「もう、時間だね。お仕事ご苦労様」と。
しかし、彼は「まだ15分ありますよ。膝枕しますよ。」と。
ついされるがまま、彼に膝枕されて寝転がる彼女に、
彼「○○さんはほんと頑張ってる。また明日もきっと頑張れる。
きっと状況も良くなる。」
と励ましの言葉をかけられ、髪を(彼がオヤジにされたように)
グシャグシャと撫でられると、彼女はついに泣いてしまう。
※ この辺で自分も涙腺いっぱいに涙を貯めてしまいました。
そして、彼女も「明日も頑張る、私は戦うんだ」と決意して
~ Fin ~
※ このお話が一番物語として良かったかと思います。
読み手「彼女」「彼」とも、ちょっと手に持った本を読むというより、
役者として覚えた台詞を言おうとするのですが、
結構たどたどしかったり聞きづらかったり、
笑い声などわざとらしさが出てしまったり、
という悪い面はあれど、一番物語も演技も観ている/聴いている側の
感情に響いたなあ、と。
きっと、こんな感じで「頑張れば頑張るほど空回りする会社員」は
世の中沢山いるだろうし、
それを影で見守る(助ける)人が居てほしいなあ、
と思わせられてしまいました。
という事で、「朗読」としては楽しめなかったけど、
「朗読演劇」としては十分に楽しめました。
こういう形で役者さんの活動の場をどんどん広げてもらって
もっといろんな役者さん(自分の好きな役者さんも)に、
こういう活動をしてほしいなあ、と思いました。
※ 役者業ってかなり大変で、
・ 自劇団でも「看板俳優」「看板女優」と脇役/アンサンブル/パフォーマー、
など、立ち位置を決められてしまっている事が多い。
・ 他劇団公演/プロデュース公演にしても、
オーディションに受からないと出演させてもらえないし、
そこには厳しいチケットノルマ
(チケット30枚さばく事!さばけなかったら自腹!など)
がある。
それでも出番がもらえるだけ良い方で、
「表舞台」を目指してるのに
「裏方専門」でしか仕事をもらえていない人も多数。
そして、舞台に立つ人ほど「いい経験」を積み、
役者として成長する機会も多い。
だからこそ、普段舞台に立てない人達に、
こういうプロデュースしやすい
(少ない費用で企画出来て、出演の為のハードルも高すぎない)
場をもっと提供してあげられたらいいなあ、
と思いました( ´ー`)
「演じる場」さえあれば育ちそうな役者さんなんて、
それこそ星の数ほどいるんです。
※ 声優さんも同じような状況ですけどね。。。
そういう意味では千代將太さんが本公演をプロデュースしたのも、
「自分はそこそこ売れたし、もっと若手にチャンスを与えよう」
という考えからなのかも知れません。。。