山盛りの日記

2012年04月23日 11時43分

俺が本当に書きたいのはパンツの事なんかじゃない

タグ: パンツ

春が走ってくる。

「まだ来るなよ」

って言っても走ってくる。

時が過ぎるのは早いものだ。

時間よ、止まれ!

俺は魔法使いのように両手を空に掲げた。

「何してるんですか」

隣に立っていた色白で小柄で春っぽい女が言った。

「いや、何。俺はあなたのパンツの事を考えていたんですよ」

「それはおかしいですね」

「おかしいんですよ」

俺と彼女はそっぽを向いて立ち尽くした。

バスはまだ来ない。

「君のパンツは何色だい」

「ブルーの水玉模様です。あなたのせいでね」

「ごめんなさい。時間よ、止まれ!」

「あなたのパンツは?」

「俺のパンツは鋼鉄製のパンツです。すごく重くって、すぐにずり下がってくる。嫌なパンツだよ」

「他のを履けばいいじゃない」

「26年間履き続けてきたんだ。これ以外のパンツを俺は持っていないんだ」

「私は毎日パンツを変えます。洗って、綺麗にして、また履く。古くなったり、飽きたら捨てる」

「新鮮なパンツ」

「そう。いつも私にぴったりのパンツを選ぶ」

「臨機応変なパンツ」

「そう。私は努力してパンツを選ぶの」

「真剣なパンツ」

「そう。そして時々はパンツを履かない」

「脱ぎたいときに脱げるパンツ」

「そう。時間よ、止まれ!」

そして春っぽいバスがやってくる。

彼女はバスに乗って、どこか俺の見えないところへ、春と共にすすんで行く。

彼女はパンツの使い方を知っていた。

そして俺はそれほど器用ではなかった。

俺は家に帰ることにした。

鋼鉄のパンツがずり下がらないように、手で押さえながら。

よたよた、ふらふら、変な風に歩かざるをえない。

人の数だけパンツがあるのだ。

ふとそんな考えが脳裏を掠めて行った。

人のパンツの色ばかりうかがっていてもキリがないのだ。