恋する寝台特急物語 フルムーンの旅5便

「博也君、それぐらいにせんね?潰れるよ」
「僕が勤め人だから良くなかちゃなかとですか?とわこのお父さんの死に目にも会わせれんで」
「そげんことなか。よく東京から来たけん、それが供養たいね」
「おいは、旦那失格ですばい。どげんしたら…」


長崎、思案橋。
スナック「みっちゃん」
とわこの父の弟の子。従兄弟の店で博也は親戚の前で泣いた。遺骨を拾い、精進上げの二次会。
「よかよか。みっちゃん、烏龍茶ば一杯入れてくれんんね」
「はい、分かりました。博也さん、そげん泣くことないばい。人生色々あるっちゃけん」
「すみません。でも、とわこのお父さんには頭が上がらんとですよ」
ー19歳の博也ととわこー
博也は就職、とわこは進学で福岡にいた。これを期に半同棲の許可を貰おうと博也は考えていた。
「俺は働いている。きっと許してくれるはずだ」
「でも、お父さん、頑固よ?」
「大丈夫。何とかする」博也は言い切った。
とわこの家に行き、軽く晩酌をした。そして、博也は言った。
「お父さん、今日は話があって来ました。とわこさんとの同棲を許して下さい」
「一緒に住むって言うことね?」
「はい。そうです」
「東京もんが何ば言いよっとか?福岡から出てくっちゃろ?」
「とわこさんを幸せにするために、福岡を出るかも知れません!でも、必ずとわこさんを幸せにします」
「そいやったら俺に付き合え」
とわこの父は台所に行き、新品の一升瓶の焼酎をテーブルにドンと置いた。
「こいば飲みきったら許す」
「博也君、そげん事せんちゃよか!お父さんもなんばするとね!」
「男の勝負ばい。2時間でこいば空けたら許す。おいも飲むけん」
「分かりました。いただきます」
「その代わり何も割らんぞ?そいでも良かか?」
「大丈夫です」
「じゃ、行くか」
それから1時間半後
「おいも東京もんって思っとったけど、おい負けばい。わかった。これ以降は好きにしてよか。ただ、とわこを泣かせんごとせんばぞ」
「有難うございます。絶対幸せにします」
「おいはもう寝る。見送りもせんけん、適当にせんね」
ースナック「みっちゃん」ー
「そがんね。おいは知らんかったばい」みっちゃんの旦那が言う。
「お父さん、ホントに酒好きやったけん、おいもそれが忘れられんたいね」
「おいさんらしかね。博也さんは、何事にも強かったい!メソメソすんな!」
「有難う、よっちゃん」
博也は烏龍茶を飲み干した。