たまちゃん(超)の日記

2018年08月12日 00時05分

大蛇を飼ってるのは、だいじゃ…誰じゃ?とは?



【通貨銅出藻伊井外道】

時は…明宝三年…

尾張の山奥に
魅落という村があった。
そこに岩のような体躯をした
黒川十兵衛という
若者が住んでおった。

十兵衛は
樵(キコリ)だった。
ある日のこと…
いつものように
山を歩いていると
一匹の大蛇が
蔦に絡まりもがいていた。

十兵衛は
斧を振り上げると…
蔦を切って
蛇を逃がしてやった。

「蛇とはいえ…ひとつの命じゃ」

そう言って
男は笑ったそうな。

さて…その晩のこと…

とんとんとん

戸を叩く音に起こされて

「誰じゃ…こんな時分に?」

聞くと…戸の向こうから…

「夜分遅く
申し訳御座いませぬ…
道に迷い難儀しております…
どうぞ一晩…
お宿をとらせては、頂けませぬか?」

と若い娘の声が
するではないか!

「それはさぞかし…
お困りでしょう…
さぁお入りなさい」

そう言って
戸を開けた十兵衛は思わず…
はっ!と息を呑んだ。

「なんと…美しきことよ」

この世のものとは思えぬ
美形の娘の姿が
そこにはあった。

「あら…」

頬を赤らめる
その妖艶な姿に
十兵衛は一瞬で
魅了させられてしまった。

女は名を北条お市といい
その日から
十兵衛の家に棲み付いた。
十兵衛もまた
こんな美人と暮らせるのは
夢のようだと
信じられない
面持ちであった。

娘は…よく働いた。

家も隅から隅まで掃除され
かつてのボロ家の
面影すらなくなっていた。
驚いたことに
それまで
ちょくちょく見かけた
鼠や蟲すら
いなくなったようであった。

しかし…
不思議なことがあった。

「お市…
俺は…お前が
飯を食っているところを見たことがない!
そなた飯を食っているか?」

「頂いておりますよ」

「うん…それにしては…
米も減らぬようだが?
遠慮は要らぬぞ」

「ありがとうございます」

娘は微笑むばかり。

気になった十兵衛は
次の日…
仕事に出掛けるフリをして
土間に隠れた。

お市は
掃除を済ませると
大きなかごを持って
庭に出た。

何をするのかと
十兵衛が覗き見ると…
草むらでなにやら
捕まえている様子。

戻ってきた娘の
駕籠の中で
ゴソゴソと
蠢くものがあった。

「な…!」

そこには
無数の蟲や
ネズミ…カエルなぞが
蠢いていた。

(どうするつもりじゃ?)

十兵衛の身体に…
ねっとりと汗が滲んだ。
女はゆっくりと
駕籠を床に置くと
髪を結っていた
紐を解いた。

ぱ ら り

女の黒髪は
床に付くほどに長く
そして揺れていた。
不自然な動きで
…揺れていた。

その刹那!

眼を疑うようなことが
起こった。
黒髪はふたつに別れ
揺らめくように宙を泳いだ。
すると女の頭が
バックリと割れ
それは巨大な大蛇の口へと
姿を変えた。

(あの時の…大蛇かっ?)

乾いていた。
十兵衛の喉は
カラカラになっていた。
その黒髪は
シュルシュルと
凄い速さで
蟲や鼠に絡みつき
真っ赤な舌が
チロチロと出入りする
その口へと運んでいく。

「ぐげぇ…げふぅ…」

もはや人間の
発する声ではなかった。
異形だった。

「ごおおおお!」

たまらず
十兵衛は飛び出していた。

いつの間にか
外は雨が降っていた。
風が吹き荒れていた。
嵐になっていた。

激しい轟音と共に
稲光が家の中の
ふたつの影を照らし出す。

十兵衛が叫ぶ。

「お市ーーー!」

黒髪の蛇が
その動きを止める。

「おいちーーー!」

バタバタと

風が…

雨が…

十兵衛の家を揺らす。

ふたりは
どれくらい
対峙していたのか…
それは一瞬の刻でもあり
永遠のようにも
感じられた。

化け物と化した
女の蛇の口からは
瘴気にも似た
生臭い息が吐かれた。

「ぐぎぎぎぎぎぎぃいいいいい…」

十兵衛は吼えた。

吼えた
吼えた
吼えた

「ごおおおおおおおおお!」

大蛇もそれに応えた。

「けひゃ!」









「つーかどーでもいーけど
お市…
頭から虫食って…おいちぃのか〜?」




「うん…おいちぃよ♪ぐひゃ♪」





ふたりは…
幸せに暮らしましたとさ♪



げひっ♪








蛇〓たまこ〓足