2016年03月31日 22時21分
桜
数年前のこの時期に描いた何か。
久しぶりに引っ張り出してみたり。
毒にも薬にもならない駄文なので。。。
以下、自己責任でお願いします。
桜の花弁がゆっくりと地に落ちていく。
「もう会えない」
私の携帯電話はその一言だけを告げた。送り主は昨日の夜、日が昇るまで私の隣に身を寄せていた。その時は永遠には続かないと頭では解って居たが私の心はそうでは無かったようだ。
涙が頬を伝わるのが分かり、濡れた頬から春風が熱だけを奪い、私はその場に立ち尽くして居た。
何かが始まる事はその瞬間から終焉に向かって歩いて居るか、走って居るのか分からないけど終った時に気が付き、そのままのその時間を欲しても決して想う通りに成らなくて、それでも私だけを見てくれる、私だけが触れる事を許される時間が私にあると想うだけでその時だけ永遠を感じられた。
太陽が沈み永遠に明日が来ないと思えた。
「二 度 ド ト 戻 ッ テ コ ナ イ」冷静な私はゆっくり確実に氷刃のような言葉を浴びせ掛けた。アノ人は家族があった、伴侶が居て子供が居て、だから私の隣だけに居られない事も分かっていた。そう頭だけは理解と凄く滑稽な自分の檻に入れ其処から出ないように出さないようにそっと飼いならして居たはずだった。涙はその檻の鍵を簡単に外し虚無感だけが私を纏い現実が現実に感じられず、沈んだ太陽はもう二度空に輝き私を照らすことは無いのだと思った。
涙が私の頬をゆっくり落ち、熱と共に抜け殻になってどれくらい経ったのか分からずかといって時間を分かろうともしなかった。
「もう会えない」の画面だけを眺め、歩みだけがそこにあり、それだけが今の私に生だけを教えた。木々から落ちる花弁が身体に触れ、触れたところから生の色彩を奪われ何処に行くも正解は無く間違えでも無い。どれだけ歩いただろう。知らない景色と深夜を告げる無音と街灯が自棄にはっきりと映し出された。
街灯下に見慣れない屋台様な屋台とは違う異様な風体の出店があった。時と風景の黒が溶け込むようにそこにあり、中からは冷たい明かりが零れていた。好奇心と自棄から私はその屋台らしからぬ屋台に脚を運んでいた。
中には白装束に身を纏った長白銀髪の店主が後ろを向き作業して居た。
「朩だやっているかしら?」私は不審な出店の店主に不審に思われないよう言葉が漏れた。
驚いたようにこちらを向いた店主は以外にも若く端麗な顔立ちをしていた、透き通るような白い肌顔に零れ落ちそうな目を更に見開きそのまま目玉が落ちるかのように目を見開いていた。
店主は我に帰り「いらっしゃいませお客様」と発した。
私の目の前には何も置かれておらず一体何の店なのか全く分からなかったが、それを察したように店主か更に続けた。
「何を売っている店か分からないでしょ」悪戯に尐年のように微笑んだ店主が異様な生き物のように見えた、人でいて人とは違う妖しい美しさがあった。
「此処は、咲く羅飴を売っています。咲く羅飴はご存知ですか?お客様。」
私は咄嗟に、
「桜飴?桜の花の飴?」と言うと、やっぱり悪戯に微笑んで答えた。
「知らなくて当然です、お客様、尐々お待ち頂いても、、、」と言うと紙とペンを取り出し『咲く羅飴』と書いて私に見せた。
「形は桜の花に偽、香りも桜の花の香りですが、咲く羅飴もし良ければ一末どうぞ。」
中指と親指に挟み棒付きの桜の花を形取った飴細工を私に渡した。
「何だか立派な飴ね」皮肉交じりに私は店主に言うと、店主は真面目な顔をして私に言った。
「そちらはサービスになりますし、食べても捨てても構いません。ただ、その後の事に関しまして私は責任を負いかねます。お客様でお決めなさってくださいませ。」
「やっぱり大袈裟な飴ね、高が飴でしょ」私は一枚花弁を折口に運んだ、口の中で飴は破裂したかのように一瞬で消え口の中に桜の香りと水飴の微かな甘味だけが残った。
「どうでしょうお客様、それが咲く羅飴です。まるで人生のように儚い飴です。」
相変わらず大袈裟な店主に尐し疎ましく感じ、私は「御代は?」と聞くと、
「先ほども申しました通りサービスですそれに咲く羅飴の御代は何時でも後払いと決まって居ます。何よりも掛け替え無いものが御代かも知れません、ですのでお気を付け下さいませ。」
「あっそ」声に成らない声を零し私は出店を後にした。
朝の光が眩しくて。
あれほど明日は来ないのだと思っていた私に容赦無く太陽の光は部屋を照らした。昨夜の事が頭を翳めた、
「二 度 ド ト 戻 ッ テ コ ナ イ」冷静な私は私に語りかけ、私は空虚な私を蘇らせた。無気力と無関心・空虚な悲しみと・現実を現実に思えない私を私は飼いならした。
勝手に携帯電話に手が伸び会社に適当な理由をつけて休んだ。適当な理由は最も適当だったらしく心配されながら電話を切った。
一日の流れを手でかき寄せ私は私の悲しみだけを最大にし、色素も熱も思考の全てを自分の不幸に注ぎ込んだ。相変わらす空虚と涙そして春風は私から全てを奪っていくようにも思えた。
日は東からゆっくり確実に西に動いていき私は私の不幸に肩まで浸かり、底の底を目指していた。目指すつもりは無くとも考えとは別に思考の全ては底に向かい生すら捨てたくも有り、一日を涙と空虚で埋めていった。
部屋は暗くなり私はベットライトを付けようとした時、テーブルの上に薄桃色の輝きが視界に入って来た。昨日の「咲く羅雨」だ。咲く羅飴はキラキラと輝いていた。私は咲く羅飴を手に取り花弁を一枚折、口に運んだ。やはり昨日と同じように口の中で飴は破裂したかのように一瞬で消え口の中に桜の香りと水飴の微かな甘味だけが残った。
一日何も食べて居なかった事を思い出し私は咲く羅飴を頬張った。咲く羅飴はあっと言う間に無くなりより芳醇な桜の香りとより完全な甘味が口の中に広がった。
私はこの不思議な飴をもっと食べたいと思い財布だけ持って買いに出た。何処をどう歩いてあの出店まで行ったのか解らず記憶を手繰り寄せながら、記憶と記憶を線で結ぶように道と道を結んで行った。何時間経ったのか?末当にこの道であっているのか疑惑が浮かび見つからず引き返そうと思ったとき、あの出店はやはり街灯の下に冷たい光を零してあった。
「見つけた」心の中で叫んだ、出店まで行こうとした瞬間、強い光を感じた。光は当然で無常に大きく、轟音と共に私は「逃げなきゃ」と咄嗟に思い身を投げ出した。
どれだけここでうつ伏せになって居るのだろう。
いつからここでうつ伏せになっているのだろう。
なぜ私はここでうつ伏せになっているのだろう。
私は自分が轢かれそうになった事を思い出した。轢きそうになった車は無かった。怪我をしているわけでは無かった。体を手で叩いた随分激しく身を投げたようで身体はドロドロになっていた。
相変わらず出店は其処にあった。財布を拾い出店に向かった。
「まだやっているかしら?」私の問いかけに店主はこちらを向き、
「ええ」と一言だけ言った。
「咲く羅飴を一つください」と言うと悪戯に笑って店主はまた一言だけ、
「ええ」と言い一末の咲く羅飴を私に手渡した。
「御代は?」私が聞くと、店主は、
「もう頂きましたので、お釣りは『咲く羅飴』の作り方でよろしいですか?」と言われ、私は財布からお金を取ろうとした時に財布が地面に落ちて行った。決して落とした訳では無く、勝手に落ちて言ったのだ。
店主は続けた、
「昨夜この店のある道で交通事故があったそうです。どうも轢かれたのは若い方みたですよ。人の人生も咲く羅飴のように素敵に思える事は手に入れて見ると形が無いものかもしれませんね。お客様。そろそろ救急車が来たみたいですよ。」
出店の近くでサイレンは止まり人集りの間から私の体が救急車に乗せられて行く姿を私は見つめていた。
fin
読み返すと修正したくなります。。。
Cid
いちさん あら、早速読んで頂いたみたいで。。。ありがとうです。実は日記にちょいちょい過去の載せてたりです。。。またお暇な時にでも覗いてやってください。読んでくれて本当にありがとうです。
2016年10月21日 21時27分