2015年04月22日 00時20分
スピカ
じぶんのことばで。
りぴーとあふたーみー。
じぶんのことばで。
ぼくはただしい手紙の書きかたをしらない。
伝えたいことばかりなのに。
ペン先はいつもするどく渇いていて。
何を書いても、かたい木版をごりごり削っているみたいだ。
ねぇ、スピカ。
どれだけ誠実でも何かから逃げることはできないし、追いつくことさえできないよ。
だからせめて、ほそくながく幾重にもかさなった傷痕に爪をたてて、ただしく奏でてあげたいとおもう。
しずかに淀んでいく夕景。揺れるいくつものモノクロームの影。手を振る誰か。町内会の掲示板。立ちこぎする女子高生のスカート。擬態するさびしさをひとつひとつ、切りとっていく。
そのどれもがやわらかい水銀のように、にぶくかがやいて、僕の心に乱反射して。おもわず目を閉じてしまう。
ペン先が手紙に着地する。
ふるえて、あふれて、にじんでいく。
ぼくだけの一等星。
きっとどこにも味方なんていないかもしれない。
でも、そのひかりはきっとただしい。
ねぇ、スピカ。
いまから巡海する準備をしよう。
ひかりかがやくさびしい航路だ。