YuriFranの日記

2013年06月23日 01時22分

花散峪山人考 冒頭

タグ: 小説

 ――どんよりとして、陰に籠って夜気は湿け、山村の、飯屋とも酒場ともつかぬ店の一角では、灯りさえ薄粥濁り、肌にまとわりつくかに裏ぶれた。はたはたと障子窓を拍つ幽けき響きは、灯りに惹かれた夜雀がまとわりつくもの。
 羽根から振り零された粉の、どこからか漏れこんでくるものでもあるまいに、目の前に黴、埃のような細かな粉が散っているような、その程度のわずかな視覚の乱れが、伊波としては珍しく、些かなりとも酔いが回っていることを示す。
 彼の前、零され続けた酒汁と煙草の灰で粗びた卓の上には、既に、立ったの、寝たの、徳利の瓶が既に六つ、七つ。八つ目の最後の一滴を意地汚く直に吸って、なお青年は頼もうとした、お代わりの台詞が舌先で縒れる。

 今更悪酔いを恐れた伊波でなし、店の主人の胡散くさげな、いや、いっそ疎ましいといってもいい注視を見たからで。
 ……暖簾は畳まれ、垂れ布も堅く巻かれて入り口の際へ立てかけられた様は門番の棍棒めいて、追加の客を拒み、店主は他の宅に布巾を掛け終え懐手、小狭い土間は妙に白けて広々と、伊波の他には、酒に汚い手合いが二三、卓にへばりついて長っ尻。店主はこちらにもじらりと眼を巡らせた。
 要するに店主は、これ異常粘らずいい加減去ね、の圧力を無言の眼差しに載せてござる。

YuriFran

希先生の文章は基本こんなんやで!

2013年06月23日 01時22分