もつにの日記

2012年05月30日 14時39分

蟷螂の鏡 急

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貧しかった山の村にかつて、一人の霊能者が訪れました。
あまりに厳しい環境に業を煮やした村長が藁をも掴む思いで呼び寄せたのです。
霊能者はある話を持ちかけました。
どんな荒地でも肥沃な土地へ変えてしまう不思議な苔がある、しかしその苔の生える土地では人は50歳までしか生きられない。
その苔は焼けばなくなるが、焼いたら最後その土地は雑草も育たなくなる。
それでもいいならこの土地に苔を敷こう。
村長は重々しく、頷きました。

霊能者の言うとおり、苔の生えた場所では異常と思えるほどに色々な山菜が生え始めました。
何も手入れをする必要も無く、季節も関係無く湧き出るように生える山菜で村は潤い始めます。
霊能者は苔の管理をする為といい村に住み、村長の息子と子を作りました。
霊能者に似たとても美しい女の子だったそうです。

程なくして、村長が狂い、後を追うように年長者から順に狂い始めました。
突然叫びだし、身体を掻き毟るように暴れたあと、急に静かになるとどこかへ導かれるように山へ入り、二度と帰ってきませんでした。
そのたびに山の苔は増え、村は豊かになっていきます。

霊能者も歳をとり、ある日「まもなく50を迎えるから娘に全てを託す」と言い村のはずれに小さな小屋を建てさせると、そこに娘と共に篭りました。
しばらくして霊能者も山へ消えました。
娘は「全てを受け継ぎました」とだけ言うと、まるで生き写しのように同じ顔で微笑みました。

娘は村人に助けられながら、何不自由なく美しく育ちました。
村一番の美女となった娘は、村に来た佃煮屋の倅と一緒になり、その身に娘を宿しました。